小説(long2)

□ハルカ、カナタ 第7章
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残された鬼鮫は、部屋の片隅に置かれたソファーにゆっくりと身を沈める。
そして、組んだ両手の上に顎を乗せ、暗闇を見つめた。
時々、天窓から差し込む光が揺れて、それがとても心地よく感じる。
まるで、海の底にいるような感覚。それがとても、安心する・・・。

「さて、・・・。私はどうやって時間を潰しましょうか・・・」

そう一人呟いて、しばらく目を瞑る。
別に、仕事が滞りなく進むならば、たとえパートナーと言えども余計な事は知る必要はない。
が、何故か伊館のことには多少興味を持っていた。

(あの“うちは”の末裔・・・、ですしね・・・)

それは少なからず、自分の仕事にも影響するもの、だ。
そう、心の中で言い訳をして。
鬼鮫はゆっくりと瞼を上げる。

「待っているだけというのも何ですし、ね」

良いことを思いついたとばかりに、鬼鮫は再びゆっくりと立ち上がる。

「せっかく弟さんが近くにいるんですから、挨拶くらは礼儀でしょう」

鬼鮫はニヤリと笑うと、静かに部屋を後にした。


・・・・・・・・・・


桜は散々にナルトを可愛がった後、衣乃と鹿丸を近くの駅まで向かえに行くために一旦帰っていっ
た。
ちょっとしたアクシデントはあったものの、都合よくナルトのことも説明が出来たのだから、満更
悪いことではなかったと案山子はホッと息を付いた。

どの道桜が村に戻っている以上、いつまでもコソコソしている訳にはいかないのだ。
ならば、言い訳をするにも早いに越したことはない。
それに、何だかんだとナルトが喜んでいるのだからそれだけでも良かったと思う。
が、・・・。

(それにして、・・・何だかナァ)

案山子は改めてナルトを見やう。
桜がいなくなって、少し寂しそうにしているナルト。
耳と尻尾がなくなったナルトは、頬の痣がなければ本当に幼い頃の鳴門そのものに見える。
思わず手を伸ばし、その小さな金色の頭に触れる。

「おいっ、何してやがるっ・・・」

その手を佐助がバシッと振り払う。
どうやら色々吹っ切っても、変な責任感は残っているらしい。

(ナルトにも、変なことはさせないってか・・・)

別に、そういうつもりなど案山子にはサラサラないのだが、ここはやはり日頃の行いが物を言うの
だろう。
さっき散々に佐助をからかったことを思い出し、案山子は苦笑するしかない。

「お前ねぇ・・・。ちょっと、確かめてみただけじゃないの。にしても、本当にちゃんと消えてるみ
たいだね・・・」

気を取り直して、案山子は言う。
佐助も「あぁ・・・」と少し納得したように頷いた。

「すごいねぇ、ナルト。他にも色んな忍術が使える訳?」

そう尋ねた案山子に、ナルトは困ったような表情を向けてくる。

「んー、俺にもよくわかんないんだってばよ・・・。本当は他にも出来るはずなんだけど、出来たの
はお色気の術だけだってば・・・。それを解こうとしたら、たまたま耳と尻尾がなくなっただけで・・・」

ナルトはそう言うと、小さな手を胸の辺りで素早く組む。と、ボンッと音がしてその場に煙が上が
った。最初に見えた頭にはしっかりと耳が除いていた。
そして尻尾は、というと・・・。

「あわわっ・・・っ」

ナルトは慌てたように身を捩って、既に半分ほどハーフパンツから溢れ出ていた尻尾をアタフタと
引っ張り出す。

「びっ、びっくりしたってばよぉっ・・・」

いや、びっくりしたのは自分の方だと、案山子は表面的には冷静さを保ちつつ内心では驚きを隠せ
なかった。

確かに一瞬で耳と尻尾が現れたそれは、まるで子どもの頃に観たアニメの忍者そのもので。
どっから煙が出て来るんだとか、質量の法則なんか無視かいっ、と思わず突っ込みたくもなるのだ
が、それらも考えるだけ無駄だろうと案山子は早々に諦めた。

それでもとりあえず確かめたいという好奇心に負けて、案山子は再び手を伸ばす。
今度ばかりは佐助もそんな案山子を止めることはせず、(どうだ)とでも言いたそうな顔で案山子
を見ていた。
耳、そして尻尾をちょこちょこと触れば、ナルトは擽ったそうに身を捩る。

「ちゃんと、あるねぇ・・・」

やっぱり深く考えてはいけないのだと案山子は改めて思いつつ、そう呟いた。



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