小説(long2)

□ハルカ、カナタ 第2章
2ページ/5ページ

そう自己嫌悪に陥った佐助に、鳴門は笑顔で行った。

『ありがとってばよ。佐助』

『何、・・・だよ。俺は、何も・・・』

『だって、心配してくれたってば?へへっ。佐助ってば、やっさしー♪』

からかうようにそう言った鳴門を佐助は思わず睨みつける。が、その青い瞳が少し揺れていて。

『この、ウスラトンカチが・・・っ』

佐助はそう吐き捨てるように言って、でもその手を伸ばして鳴門の頭を撫でる。
以前、案山子がしてたように。
自分も少しだけ、触れてみたいと思っていたのだ。
思っていたよりも柔らかな、金色の髪。

『ウスラトンカチって何だってばよ・・・っ。馬鹿佐助っ!』

『うるっさい、ドベっ』

『きーっ!何かムカツクってばよぉっ!』


その後から、ほんの少しづつだけれど、二人の距離は縮まっていった気がする。
それに、そう・・・。
確かに佐助には心境の変化があった。

自分以外はどうでもいい−−−。
ずっと、そう思っていたのに、ずっと、そうやって生きていくんだと思っていたのに、いつのまに
か鳴門のことだけは“別”になっていた。


しばらくは鳴門のそういった状況は続いたけれど、それでも鳴門の本来の人懐っこさや一生懸命な
ところが皆に伝わり始めると、そんな鳴門を取り巻く環境も徐々に変わっていった。

小学校を卒業する頃には、鳴門にも何人か親しい友達が出来た。
そんな中で佐助はいつのまにか鳴門にとって『永遠のライバル』に位置づけられたらしく、相変ら
ず何だかんだと言いながらも傍にいた。

それは中学に上がって、クラスが別になっても続いた。
鳴門は小学校の時とは違い、クラスメートとも上手くやっているようだった。新しい友達もでき、
いつも楽しそうにしていた。
それでも何故か、鳴門は休み時間になるとちょくちょく佐助のクラスに顔を見せた。

小学校の時から、鳴門とつるむようになっていた奈良鹿丸やその親友の秋道長司がいたからという
こともあったけれど、鳴門が佐助に構って欲しくて来ているのは明白だった。
それを口では煩わしいといいつつも、どこかで嬉しいと感じていた自分。

それに、佐助のクラスの大半の女生徒たちはそんな鳴門を両手を上げて歓迎していた。
小学校の頃と同様、いや、それ以上に佐助は女の子たちから人気があった。
そんな佐助と同じクラスになったのだから、是非仲良くなりたいというのが彼女たちの共通の思い
だ。

けれど、当の佐助はなかなかクラスに馴染んでくれない。せっかく話しかけても『ああ』とか『そ
う』とか短い返事しか返ってこないし、下手をすれば冷たい視線を返されるだけ、なのだ。
けれど、それでも近づきたいと思うのが乙女心というもので。

そんな中、鳴門が来た時だけは滅多に笑顔を見せない佐助が僅かに相好を崩す。
さらに、鳴門はその場にいる誰にでも気軽に話を振るので、上手くいけば二人の会話に加わること
が出来るのだ。

そのチャンスを今か今かと狙っている女子たちと、それに便乗しようとする男子が集まり、二人が
揃った時には佐助のクラスは異様な雰囲気だった。
けれど当の本人たちは全く気にした風もなく、鹿丸辺りは内心安堵しつつも『面倒くせぇ』と常々
ぼやいていた。


『ちょっとっ、鳴門っ!あんたまたこんなとこにいてっ!次、体育なのよっ。佐助くんにちょっか
い出してないで、とっとと準備しなさいっ!』

そんな鳴門をいつも連れ戻しに来るのが、鳴門のクラスの委員長、春野桜だった。



次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ