小説(long2)
□ハルカ、カナタ 第2章
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「ホント変わってないねぇ、お前は・・・。あぁでも、身長は伸びたなぁ。相変らずモテてんじゃな
いのぉ?」
からかうようにそう言った案山子を、佐助は思わずキッと睨む。
「何で、あんたがここにいるんだ。案山子・・・」
そう言った佐助を、案山子は傷の無い方の目を細め、見据えた。
佐助はハッとして、視線を逸らす。
「お前こそ、何でここに来た?もう二度と、村には戻らないんじゃなかったのか・・・?」
佐助にもわかるほど、その声色は変わった。
あの時と、同じ・・・。
三年前、伊館と同じように、アイツが突然消えてしまった時、だ。
その現実に耐えられず、村から出る決意をした佐助に、案山子は言った。
『お前は諦めるのか?それが、お前の選んだ道なのか・・・?』
お前は本当に、それでいいのか−−−?
けれど、佐助はそんな案山子の言葉に耳を塞いだ。
聞きたくなかった。何も、考えたくなかった。
もう、何もかもがどうでもよかった・・・。
結局、その案山子の問いに何の答えも返せぬまま、佐助は村を出たのだ。
その時のことを思い出し、佐助は僅かに息を吐く。
「別、に・・・。丁度ニュースで木隠れ神社が映って、何となく、気になっただけだ・・・」
それは、事実、だ。
そんな佐助に、案山子は「ふーん」と気の無い返事を返す。
「ま、・・・いいけど、ね。でも、さっきも言ったけど、ここは立入禁止。多分、しばらくは続くん
じゃない?っとに、祭りまでには何とかして欲しいけど・・・」
そう言って、表情を緩めた案山子を今度は佐助がじっと見やう。
「そう言うあんたは何で、立入禁止のはずの境内にいるんだよ」
まるで、自分が来るのを待っていたみたいだ。
けれど、案山子は何食わぬ顔で言う。
「あぁ、俺は見回り当番ってヤツ。誰かさんみたいに“立入禁止”だって札があるにも関わらず、
野次馬根性で入り込もうとする馬鹿ガキがいるかもしれないしねぇ・・・」
嫌味のようにそう言って、案山子はニヤリと笑う。
(だったらコソコソしないで、鳥居の前にでもいりゃいいじゃねぇか・・・っ)
思わず、佐助は心の中で毒づく。
そんな佐助を案山子は再び目を細めて見やう。
「でも、まぁ、・・・お前が来るんじゃないかとも、思ってた・・・」
交された視線。
佐助はぐっと息を飲む。
「あんた、やっぱり・・・」
何を、知ってる・・・?
心臓がドクドクと激しく脈打つ。
それは、当時も僅かながらに感じていたこと、だ。
案山子は何故、それまで何の関わりもなかった佐助に手を差し伸べてきたのか・・・。
案山子も早くに両親を亡くしている。だから放っておけなかったのかと、最初は思った。けれど、
それだけではない何かを、確かに感じていたのだ。
そして今、こうしてこの場で顔を突き合せている・・・。
その事実に、佐助はそれを確信していた。
畑家も、今は案山子一人になってしまったけれど、代々この村に住んでいる古い一族の一つだ。
特に、案山子の父親である畑佐久茂(サクモ)は、団扇家とはまた違った意味で村では一目置かれ
た存在だった。
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