小説(long2)

□一片に、舞う 第8章
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どれ位の時間が経ったのだろうか。女の周りの結界は、徐々にその効力を失っていく。
それを心底、楽しそうに眺めているカブト。

(ヤバイぜ、ちくしょうっ・・・)

水月が思わず両手を握り締めた時、事は起こった。
教団の建物の方から幾つもの奇声が響く。
そして、こちらに向かってくるチャクラがある。
しかし、それは知ったものでは、ない。

「これは驚いた。まだ諦めていない愚かな部下がいたようですねぇ・・・」

カブトがそう言って立ち上がった時、扉が爆音と共に開け放たれる。

「巫女様っ・・・」

姿を現したのは、一人の男。巫女の姿を認めると、僅かに安堵の表情を浮かべるも、すぐにその
表情は固まる。
その視線は、カブトの足元に吸いつけられるように向く。

「これは、これは・・・。今まで一体どちらに?あぁ、砂の里にでも行ってきたんですかね?でも、
お一人で戻ってきたと・・・。どいつもこいつも、役に立たないなぁ」

本当に困ったものですねぇ・・・。と、カブトは両手を上げ、ゆるゆると首を振る。

「貴様・・・っ」

「どうしました?まさか、あの術が僕に破られるとは思っていなかったとか?くくっ、世間知らず
にも程がありますよ。本当に、君達は・・・」

愚かで、役立たず、だ。
カブトはそう言って、ゆっくりと眼鏡に手を掛ける。

「そう言えば、この椎名とかいう忍・・・。あなたの弟さん、でしたよね?」

つま先で、足元のそれを転がし、カブトはにやりと笑う。

「せっかくここまで来たんですから。後を追わせてあげますよ。役立たずには用は、ない」

低く、そう言い放ち、カブトはゆっくりと眼鏡を上げる。

「芹名っ!!」

女が叫んだと同時に、カブトの腕が激しく隆起し、勢いよく男に向って伸びる。
男はそれを寸前で交し、素早く巫女に駆け寄ろうとする。
だが、カブトはそれを予測していたのだろう。もう片方の手がメスを握り、それを放つ。

「こっちに来てはいけませんっ!」

女の叫びは虚しく響き、駆け寄る男の身体にドスドスとメスが突き刺さる。

「くっ・・・」

それでも男は巫女の前に立ちはだかる。
既に、結界はほとんど消えていた。

「素晴らしい忠誠心だ。さすが兄弟、とでも言っておきましょうか・・・。けれど、どうするおつも
りですかね?あなたの力では僕は倒せない。わかっているでしょう?あぁ、弟のようにまた、命懸
けで結界でも張りますか?」

見下したように、カブトはくくっと笑う。

「でも、待つのも飽きてしまいましてね。それに、いい加減うんざり、というか・・・イライラする
んですよね。あなた達みたいなお人好しを見ていると・・・」

まるで、昔の自分を見ているようで・・・。
大蛇丸の為に、全てを捧げ、尽くしてきた自分。

『大蛇丸様の夢は、僕の夢−−−』

誰よりもその意志を理解し、誰よりも傍にいた自分。
最も信頼され、必要とされていた、はずだった。
しかし、・・・。

そう思っていたのは、信じていたのは、自分だけだった。



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