小説(long)

□一片に、舞う 第2章
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「僕が、彼の方に会うのがそんなに気に入りませんか?」

だんだんと、面倒臭くなってくる。この身にあの人を受け入れてから、自分は随分と短期になった
ものだと思う。けれど、それすら愛おしい−−−。

「そのような禍々しい姿で、よくそのようなことが言えるっ・・・。これ以上、あの方の目に触れ・・・
っ、ぐっ、がぁっっ・・・!」

騒がしさに男が目を開けると、目の前で宙に浮かぶ椎名の姿があった。

「あーぁ、やってしまいましたねぇ・・・」

男は「くくっ」と笑う。


視界の中で、尻餅をつき、ガタガタと震えるもう一人をそっと見やう。しかし、その者は決して男
と目を合わせようとはしない。それは、本能、だろうか・・・。


「あぁ、安心してください。殺しては、いませんよ。少し、静かにしてもらっただけですからね」

男はそう言って、視線を上げる。
その視線の先には、これもまた何度か顔を合わせたことのある教団の幹部であろう顔が二つ程あった。

「では、椎名を放して頂きたい。この場所で血を流すなど、あの方は望んではいない」

その内の一人が、数歩前に進み出る。
椎名と呼ばれる男に、少し似ている。兄弟、だろうか・・・」

「もちろん、離しますよ」

男はそう言って、何度か深く呼吸を繰り返し、気を落ち着かせる。
そうすることで、男の身体に巣くうあの人の一部は、徐々に力を弱め、再び男の元へと戻ってくる。
しばらくして、椎名の身体はゆっくりと地面に向かって落ちていった。それをもう一人が素早く
動き、受け止める。


「失礼を、した。巫女様は、あなたをお待ちです・・・」

何事もなかったように、その幹部は男を促す。
けれど、男はゆっくりとぐったりとした椎名を抱きかかえるもう一人の下へと歩み寄る。
こちらは随分と若い、まだ少年の面影を残した容姿をしている。
それでも、その顔に見覚えがあるのだから、この教団の幹部、すなわち彼も忍の血を引いている
のだろう。


近づく男に、椎名を抱きかかえたまま、サッとクナイを構える。

「おやおや、そんな危ないものを持っていては、簡単に命を落としますよ?あなたも忍の端くれ
ならわかるでしょう?・・・それに、人の親切はきちんと受けるものです」

男は笑って、その近くに片膝を付く。

「心配しなくても大丈夫。僕もこれでも医療忍者の端くれ、なんですよ」

男はゆっくりと片手で眼鏡を持ち上げる。

「このままでは、彼の方に申し訳ないですからね。ちゃんと治療して差し上げます。今、君達と
争うつもりはないのですし・・・」


そう、自分達は結託したのだ。それぞれの目的を果たすために。

「ほら、見せてください。あなたの大切な方もそれを望んでいるでしょう」

そう言葉にすれば、彼はおずおずと椎名の身体を自分の元へと差し出す。
その余りの素直さに、一瞬、この椎名とかいう男を目の前で殺してやろうかと、思った。
けれど、もう一人はそれを感じ取ったのだろう。一瞬にして、その身のチャクラを練り出す。

忍とはやっかいなものだ。
その力がある者ほど、相手のちょっとしたチャクラの動きで、敵の行動を読むことができる。

男は両手を上げ、ふるふると首を振った。



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