小説(long2)

□ハルカ、カナタ 第4章
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第4章-2


高校生活も順調、だったはずだ。

運よく二人は同じクラスになれたし、桜も一緒だった。
その頃には既に、佐助と桜が付き合っているなんて話は化石のようになっていたし、その後の変わ
らぬ桜の態度から、告白そのものがデマだったんだろうとさえ思われていた。

けれど、実際には桜は随分と変わったと思う。
以前の桜は佐助に対しては控えめで、ある意味従順だった。それがいつの間にか、自分の意見を
はっきりと伝えてくるようになっていた。
いや、容赦をしなくなった、と言った方が正しいのかもしれない・・・。

特に、鳴門に関することは、その責任が全て佐助にあるのだと言わんばかりに、やたらと説教をさ
れて・・・。
そんな桜を見ていると、自分達のことを知っているんじゃないかと思わず疑ってしまいたくなる。

もともと、桜には自分の気持ちが見透かされているような気がしていたのだが・・・。
鹿丸には及ばないが、桜もそれなりに頭が切れる。いや、恐らく勘の鋭さで言えば、鹿丸よりも上、
だ。
そう考えれば、桜が気付いていない方がおかしいのかもしれない・・・。

そんなこともあって、結局、鳴門と二人すっかり桜には頭が上がらない状態で。けれど、それが
三人にとっては一番“らしい”ような気もし始めていた。


他のメンバーもそれぞれ、鹿丸、長司、衣乃、そして牙、志野、比奈多が同じクラスになってい
たから、順調に高校生活にも慣れたようだ。
互いに落ち着き始めると、クラスの行き来も頻繁になって、そのメンバーで集まることも度々あっ
た。

皆、それぞれの進む道を模索しながら、けれどそんな気の置ける仲間がいることで随分と救われる
こともあって。

とにかく毎日が慌しくて、それでも充実していて。
そんな日々もあっという間に過ぎて行き−−−。


そして、夏休みが目前に迫った頃。

『佐助の誕生日は、ずっと一緒にいるってば・・・』

そう、頬を赤らめて言ったのは鳴門、だ。
丁度その日から夏休みで、自来也も取材旅行でいないらしい。

去年の佐助の誕生日は、剣道の大会を目前に控えていたためにそれどころではなく。
その後の鳴門の誕生日も、恋人にとっては甘々な日となるはずのクリスマスも、バレンタインも、
鳴門の受験勉強一色で終わってしまっていたのだ。

合格が決まった後、ようやく二人は結ばれて、その後もそういったことは何回かしていたけれど、
実際に二人きりでのんびりと過ごしたことなど、数える程しかなかった。
その理由の一つが、鳴門がバイトを始めたこと、だ。

もともと鳴門は中学を卒業したら自立するつもりでいたのだ。

『学校の授業料くらいは、自分で稼ぎたいんだってばよ』

そう言って、その翌日には駅前のラーメン屋でのバイトを始めてしまった。
そのラーメン屋は鳴門が好きでしょっちゅう通っていた店で、佐助も何度か連れていかれたことが
あった。

けれど、普段は店主の娘がその手伝いをしていたはず。それを問うてみれば、どうやらいい人が出
来て、週末くらいは自由にしてやりたいと店主がぼやいているのを聞いた鳴門がバイトを申し出た
らしい。

だから、時給もそれほどいいものではない。けれど、鳴門らしいといえばらしくて。
と言っても、余りに性急なそれに、さすがの佐助も納得ができず喧嘩になったりもした。

相変らず、学校の後には二人とも案山子の道場には通っていたし、二人でゆっくり出来るのは週末
くらいだったのだ。
その週末のほとんどに、鳴門がバイトを入れてしまって・・・。



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