小説(long2)

□ハルカ、カナタ 第2章
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第2章-2


案山子の話では、鳴門は生まれて直ぐ両親を失い、近隣の町の施設で育ったらしい。
けれど、父親はもともとこの木の葉村の人間で、そのツテでとある老人に引き取られた。
その老人はかつて、木隠れ神社の神主を長く務めたこともあるという佐助もよく知る存在で、村の
皆からは“先代”と呼ばれ、親しまれていた。

何故、急に引き取られたのかは、当時の佐助には全くわからないことだった。
案山子も、その父親が自分の恩師だったという事以外は何も教えてはくれなかった。

それでも、宣言通り翌日から鳴門は道場に来るようになったし、さらに週明けからは佐助の通う
小学校にも転校してきた。
村の小学校は1学年1クラスしかないもので、同じ年であれば必然的にクラスメートだ。
つまり、二人は一日の大半を一緒に過ごすことになったのだ。
そのことで、佐助の生活は少しづつ変わっていった。

佐助はそれまで、出来るだけ他人と深く関わらないようにしてきた。
もともと人付き合いは得意な方ではなかったし、家族を失ってからは余計にそういったものが面倒
になっていた。

そんなオーラを隠すことなく出す佐助に、同年代の子ども達はもちろん、教師でさえなかなか近づ
くことが出来なかったのだ。


それでも“団扇”の名を継ぎ、文武両道、かつ整った顔をしている佐助は女の子たちからの人気も
あり、何かと注目されている存在だった。

そんな佐助に、転校初日から親しげに接する鳴門はある意味目立ちすぎたのかもしれない。
最初はその明るい性格で好意的に受け入れられていた鳴門だったのだが、直にその出生のことが噂
になり始めた。
始まりはちょっとした嫉妬心。けれど、それは徐々にエスカレートしていった。

鳴門が孤児で、ずっと施設にいたことは本当なのだから仕方がないとしても、『無理心中で鳴門だ
けが生き残った』だの『両親は犯罪者で殺された』だの、悪意に塗れた根も葉もない噂まで囁かれ
るようになった。

それでも、鳴門のことだから黙っていないだろうと佐助は思っていた。
けれど、実際には鳴門はそう言った酷い言葉をどんなに投げつけられても、一切の反論をしなかっ
た。


『何で言い返さないんだよっ。あんなこと言われて、お前は悔しくないのかっ?!』

さすがに見ていられなくなって、佐助は鳴門を怒鳴りつけた。
自分にも原因の一旦があると思っていたし、何より佐助自身が何故か、悔しかったのだ。
けれど、鳴門は『へへっ』と笑った。

『だって、俺ってば父ちゃんのことも母ちゃんのこともほとんど知らない、から。誰も、詳しいこ
とは教えてくれないんだってばよ・・・。だから、何て言い返していいのかわかんないってば・・・』

そんなの嘘だ!
間違ってる!
そう、はっきり言い返すことが自分には出来ないのだと、鳴門は言った。

『それに、こういうのは慣れているから平気だってば。大丈夫。俺は絶対諦めないからっ』

明るくそう言い放つ鳴門に、佐助は何も言えなかった。
いつも、そうだ。
自分には、何も出来ない・・・。



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