小説(long2)

□ハルカ、カナタ 第1章
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第1章-2


『お祭りの時、団扇は必ず、もちろん佐助も、神社の他にお参りしている場所があるだろう?』

そう言われて、幼い佐助はハタと気付く。
確かに、両親に連れられて、神社のあと必ず訪れる場所があった。
祭りの喧騒から離れて、神社の裏山を少し入ったところにある小さな祠・・・。

『そう、・・・本当に“九尾”が封印されているのは、あの祠だ・・・』

冷静に、伊館は言う。
佐助は困惑した。

『そんな大切なことっ・・・』

何故、そんな大切なことを村の人達は知らないのだろう。
もし、それが本当であるならば、皆でもっとあの祠を守らねばならないのではないか・・・。
佐助は素直にそう思った。

『長い年月の間にその部分がうやむやになってしまったのか、それとも最初から意図的にそうされ
ていたのかは、わからない。けれど、少なくとも団扇はそれを知っていて、代々受け継いできた・・・』

つまり。

『団扇はずっと、本当の九尾の封印を守ってきたって、こと・・・?』

それが、団扇に与えられた特別な使命・・・。
佐助はゴクリと咽喉を鳴らす。


『実は、俺は父さんからそう聞いていた。跡取りとして知っておけと、12の時にね。でも・・・』

本来のそれは、違った−−−。
伊館は厳しい顔で、そう言った。

『おかしいとは、思っていたんだ。“使命”と言いつつも、することと言えば年に一度、今してい
るようにあの祠に参拝するだけ、だ』

それ以外のことは、何もしない。いや、できないのだ・・・。
そう言った伊館に、佐助は首を傾げるしかない。

『そうやって、見張っているんじゃ、ないの?九尾が起き出さないように・・・』

伊館が何を言いたいのか、佐助にはよくわからない。
そんな佐助の前で、伊館はただゆっくりと首を振る。

『例え伝承の類と言えども、いや、そういうものほど、“特別な何か”を課せられた者には“特別な
な情報”なり何なりが与えられているのが、常套というものだ・・・』

『じょう、とう・・・?』

聞き返す佐助に、伊館は少し考えながら口を開く。

『つまり、・・・本当に“九尾の封印を守る”ほどの“特別”な使命が与えられているのだとしたら、
その封印に関わる何か“特別なこと”を受け継いでいるはずだってことだよ。例えば、・・・封印の仕
組みだとか、それを守るためのもの・・・、有り体に言えば、特殊な呪文とか、儀式のようなもの・・・』

ただ見守るだけでは、封印は守れない。
何かあった時に、それを阻止できる何かしらの手法が必要なはず。そういったものが例え形式的に
でも何も継がれていないのでは、余りにお粗末な使命だ。
そう言って、伊館は自嘲的に笑う。

『けれど、この祖父の残した手記を呼んで、その理由がわかった・・・』

佐助は思わず、それを見やう。

『答えは簡単だった。そう、本来“九尾の封印”を守っていたのは団扇じゃなかった。団扇の使命
とやらは、別にあったんだ。そうわかってしまえば、何の不思議もなかった・・・』

一人、納得したようにそう言って頷く伊館に、佐助は頬を膨らます。

『わかんない、よっ。一体それに、何が書いてあるの?!』

“九尾の封印”を守っているのは“団扇”じゃない。
伊館は確かにそう言った。
と言うことは、“他にいる”ということだ。
それに、団扇の使命が“別”にあるということは、どういうことなのだろう。
その使命とは一体何?



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