小説(long2)

□ハルカ、カナタ 第1章
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第1章-1


2009年、8月−−−。

長い石段を登る途中、団扇佐助はふと足を止めた。
ゆっくりと振り返り、照りつける太陽を片手で遮りつつ、眼下に広がる風景を見渡す。

変わらない風景。
懐かしさを感じつつも、それでもやはり複雑な思いが込み上げてくる。

ここからは、かつて“忍の里”だったと言い伝えられている『木の葉村』が一望できる。
とは言え、それは山間になる小さな村だ。
佐助は高校1年の夏まで、この『木の葉村』で育った。


「あれから、3年か・・・」

思わず呟いた佐助の声だけが、静かに響く。

もう二度と、戻ってくるつもりなどなかったのに・・・。

そう、佐助は3年前、村を捨てたのだ。
いや、捨てたというよりは、逃げ出したと言った方が正しいのかもしれない。

それなのに何故、来てしまったのか・・・。

佐助はそっと息を吐き、再び石段へと向う。
その先には『木隠れ神社』という小さな神社がある。


実は2日程前、この辺りは大型台風の直撃を受け、大きな被害が出ていた。
その一つに、この木隠れ神社の裏山の土砂崩れがあったのだ。

何気に見ていたテレビがそれを伝え始めた時、佐助は思わず身を乗り出していた。
見覚えのある、場所。
神社の建物そのものは無事だったようだが、その直ぐ裏手にまで土砂が迫っていた。

『神様が守ってくれたのでしょう』

そんなコメントを笑顔で発するアナウンサーの女性。
けれど、佐助の目はその女性の背後に釘付けだった。


(祠は無事なのかっ・・・?!)

神社の裏山を少し入ったところに小さな祠があったのだ。
そして、それは本来、神社そのものよりも重要なもの−−−。
それは村人にさえ、ほとんど知られていない事実。

結局、そのテレビの映像からはそれを確認することは出来ず・・・。
苛立ちはもちろん、困惑と言いようのない不安が佐助を襲った。
それでも、・・・。


自分には関係ない−−−。

そう、何度も自分に言い聞かせた。
自分は木の葉村を捨てたのだ。
全て忘れるために、全てのしがらみを切り捨てて・・・。

それなのに。

気付いた時には最低限の荷物をスポーツバックに押し込み、それを手に部屋を飛び出していた。



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