小説(long2)

□一片に、舞う 最終章
1ページ/8ページ


最終章-2


足元には、ざわめき立つ、大量の水。
纏わりつく、九尾のチャクラ。
サスケはゆっくりと顔を上げ、真っ直ぐに前を見つめる。そこには、壊れかけた鉄格子かあ首を
突き出している、九尾。
その目がギロリと、サスケを見やう。

「うちは、サスケ・・・」

九尾は眉間に眉を寄せ、忌々しげに口を開く。
サスケは黙ったまま視線を上げる。僅かに傾いた鉄格子に、ナルトが何重もの鎖で括りつけられ
ている。その腹からは、ドクドクと赤い血が滴り落ちる。

「ナルト・・・っ」

サスケの目が、赤く染まる。浮かび上がる三つの勾玉模様。

「また、邪魔をする気か?何故、だ?コヤツも楽になれるのだぞ・・・」

素直にその身を明け渡せば、全てのしがらみから解放される。
二度と、苦しみを味わうこともなくなるのだと、九尾は言う。

「ナルトがそれを、望むなら・・・なっ」

だが、・・・。
ナルトは意識を失っているのか・・・。それでも、その手がしっかりと封印の札を握り締めている。
そのために、九尾は出られないのだ。
それが、ナルトの意志−−−。

サスケは片手を伸ばし、九尾の鼻梁を掴む。

「ナルトは、返してもらうっ!」

瞳の文様が万華鏡のそれへと変わる。
押さえつけられ、水面に顔をつけた九尾は、ギリギリと歯軋りをする。
しかし、全身から再びボコボコと音を立て、強大なチャクラが溢れ出す。
そして、再び水面から顔を上げた九尾がサスケを睨みつける。

「うちはっ、いい気になるなよっ。例え、何度押さえつけようが、我の存在はコヤツからは消え
んっ。我は何度でも、コヤツを喰らうっ・・・」

何度でも、何度でも・・・。

「その度に、コヤツの身体は蝕まれるっ。人間は脆いっ。いつか我が、自由になろうっ!」

そう叫んだ九尾を、サスケは両手で押さえつける。

「無駄な、ことだっ・・・。所詮、人間と我らとは違うのだからなっ・・・。覚えておくが、いいっ。
そして、知るがいいっ。人間の脆さ、人間の驕り、人間の愚かさっ・・・」


「だから、何だっていうのよ・・・?」

突然、響いた声。
サスケは驚いて、振り返る。
そこには、瀕死の重傷を負っていたはずの、巫女・・・。

いや、・・・巫女、なのか?
思わず、そう思う。
確かにここは、ナルトの精神世界。現実とは、違う。
意志の力で、どうとでも、なる。けれど、・・・。
赤く長い髪。栗色の瞳。
鮮やかな朱色の忍服を纏い、凛とした表情をしたその女性は、先ほどチラリと見た巫女とはどこ
か、違う。


「あたし達だってねぇっ、一生懸命生きてるのよっ!確かに、あんた達からしたら人間なんて弱い
生き物かもしれないけどねぇっ、こちとらっ、それでも精一杯生きてんのよっ!文句あるっ?!」

そう叫んで、バシャバシャと水をかき分けながら、近づいてくるその女性は、ようやくナルトの
状態に気付いたのか、

「きゃーっ!ちょっとっ!!うちの子に何してくれてんのっ!!」

と、目を見開いて、サスケと九尾の横を駆け抜け、鉄格子にしがみ付く。

「何なのよっ、これっ!ナルくんっ、大丈夫っ?!」

完全に、自分達など眼中にないのだろう。
ガタガタと鉄格子を揺らしながら、キャーキャーと喚くその後ろ姿を、サスケは思わず呆気に取
られて見つめる。

「何だ、あれは・・・」

九尾もやや、困惑気味にそう呟く。
ここは、己が支配する場所。うちはの血を継ぐものならともかく、なぜ、あんな存在が張り込ん
できたのか・・・。

「何者だ、貴様・・・っ」



次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ