小説(long)

□一片に、舞う 第8章
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第8章-1


小さな集落が集まった村の外れ、連なる岩山の麓にその施設はあった。
その全景が見える程度のところまで近づき、岩陰に潜みつつ二手に分かれた状態で様子を窺う。
ナルトはサスケと重吾、シカマルは時谷と一緒だ。

教団の建物自体はそれほど大きくは見えない。しかし、山肌にへばりつくように建てられたそ
れは、まるで背面の一部が岩山と同化しているような造りになっていた。

実際、教団施設の中枢はあの山の中。
時谷の話では、建物の中から山の中の洞窟へ続く入り口があるのだという。そこは教団幹部と
一部の信者しか入ることは出来ない。
以前、重吾と香燐が教団に潜入した際、大蛇丸のチャクラを感じたのもその先だ。

洞窟は地下へと続いており、山の中心部辺りの大きな空洞を利用して、巫女との謁見室が造られ
ている。教団の運営から退いた巫女と対面が叶うのは、例え信者と言えどもそこだけだったらし
い。信者以外でそこに通された者は、おそらくカブトだけだと時谷は忌々しげに言った。


「変だな・・・」

背後から重吾がそう小さく呟く。

「どうしたってば?」

ナルトは振り返り、重吾を見やう。

「静か、すぎる。俺達が以前来た時には、建物自体は開放されていた。信者の多くは村人で、その
ほとんどは祈りのためにこの施設に通ってきていた。だから、昼間は特にあの正面の扉が閉ざされ
ていることはなかったはずだ」

重吾はそう言って顔を顰める。
確かに、建物は不気味なほど静かだ。信者の姿すら、一人も見当たらない。
シカマルたちの方を窺うと、丁度こちらにシカマルが合図を送っているところだった。
その指示通りに一旦、その場を離れる。


「どうやら、事態はあんまり良くねぇみたいだな・・・」

再び、全員で顔を合わせた途端、シカマルは溜息混じりにそう口を開いた。
どうやら重吾と同じようなことを、時谷が話していたらしい。

「何かあったことは間違いなさそうだ。とりあえず、裏手に回ろう」

「裏手って?」

シカマルの言葉に、ナルトが首を傾げる。

「実は、抜け道が、あるんです」

そう答えたのは、不安そうに表情を強張らせていた時谷だった。
それでも両手を握り締め、口を開く。

「謁見室の更に奥が、俺達の住居エリアになっています。そこは自然に出来た入り組んだ洞窟を
そのまま使っているので、慣れた者でなければ迷路のようなもの、です。その一つが、山の裏側
に通じているんです。何かあった時には、多分皆そこから・・・」

カブトとて、謁見室から先へは足を踏み入れたことがないはず。
そこに逃げ込めば、時間稼ぎにもなる。
しかし、・・・。

否応のない不安が、時谷を襲う。
時谷にとっては、生まれてからずっと生活してきた場所だ。
そこに在る空気も、音も、匂いも、・・・全てが日常に溶け込んでいて。当たり前のものだと思っ
ていたのに・・・。今はそれが、感じられない。
まるで、知らない場所のように・・・。

思わずそこから顔を背ける時谷の背中がバシッ、と強く叩かれる。

「痛っ・・・、ナ、ナルト様っ・・・」

「目を逸らすんじゃねぇ。諦めてんじゃ、ないってばよっ!」



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