小説(long)

□一片に、舞う 第7章
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第7章-1


ナルトは窓枠にもたれ、ぼんやりと夜空を見上げていた。
そこには無数の星−−−。

幼い頃、同じように夜空を見上げながら、自分の親はどこにいるのかと、三代目のじっちゃんに
聞いたことがあった。
『死んだ』とは聞かされていたけれど、その意味すらまだよくわからなくて・・・。
“傍にいない”ことが、『死』なのだと、漠然と思っていた。
だから、自分の親はいったいどこで何をしているんだろうと、何故、皆の親のように傍にいてく
れないのかと、不満に思っていた。


『父ちゃんと母ちゃんが傍にいてくれたら、俺ってばきっと、みんなに嫌われたりなんかしない
のに・・・』

そう呟いたナルトに、三代目は『そうじゃなぁ・・・』と少し寂しそうに言った。そして、

『お前の両親は遠いところにいってしまったが、お前のことはちゃんと見ておるぞ。ほれ、空に
はたくさんの星があるじゃろう。あのどれかから、きっと見ておる。そして、・・・お前の幸せを、
願っておるんじゃ』

『あそこに、いるの?』

『お前がそう信じるのならば、きっと』

じゃあ、俺もあそこに行きたいってば・・・。
ナルトはそう言って目一杯手を伸ばした。
けれど、届きそうなのに、届かない。

『それは、できんのじゃよ、ナルト・・・』

お前は独りでも、ここで生きなきゃならん。

『けれど、大丈夫じゃ。きっと、お前にも大切な仲間が出来る。いつか、その意味も、分かる・・・』

そう言って、大きな手でクシャクシャとナルトの髪を掻き混ぜた。


その時には、三代目の言っている意味はほとんどわからなかった。けれど、それからしばらくし
てナルトは、本当の『死』というものの意味を知った。
それは、この世にはいないということで、つまりは二度と会うことは叶わない、ということ。
そう、どんなに手を伸ばしても、その星に触れることができないように・・・。

それでもしばらくは、時々独りで夜空を見上げては、手を伸ばした。
そこに行きたいと、何度も思った。
本当は、そこには何もないとわかっていたのに。


けれど、いつからだろう。
夜空を見上げても、手を伸ばすことはなくなった。
上へと伸ばしていた手を、前に伸ばす。
同じ目線、同じ場所にいる者に向かって。
上へと伸ばしていた手には何も掴めなかったけれど、前に伸ばせば掴めるものが、ある。
“諦めない”、その気持ちが在る限り、この手はそれを掴むことができる。

そう、それが、“生きている”ということ。

そして、今ならば、三代目の言っていたことが何となくわかる気がしていた。
もちろん、“死んだら星になる”なんてことを信じている訳じゃ、ない。
けれど、人は死んでも、その“思い”はなくならない。生きている者の中で、ずっと在り続ける
もの・・・。
だから、自分がそこにいると思えば、きっとそこにいるのだ。

たとえ、それが手の届かない、あの空高くにある星であっても。
それでも、確かにあるもの−−−。
この目に映る、輝き。

人はそうやって、大切な人への思いを確認したいのだ。
もう、会えないとわかっていても・・・。
それでも、その思いが確かに在ると信じて。



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