小説(long)

□一片に、舞う 第6章
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第6章-1


シカマルは既に森を抜け、砂地を駆けていた。砂隠れまではあともう少し。
ややスピードを上げすぎていたためか、それとも色々と思考を巡らしながら駆けていたためか、
かなりの疲労を感じる。
そもそも頭脳派のシカマルにとって、短期間での長距離移動は苦手とするところだ。
しかし、そうも言っていられない。

ようやく砂の里の入り口である巨大な岩門を目にし、シカマルは思わず安堵の溜息をつく。

(ちくしょう。着いたらちったぁ、休ませてもらうぜ・・・)

そう思ったのも束の間、その門の脇にテマリの姿を見つけてしまい、シカマルは眉間に皺を寄せ
る。嫌な予感、がしたのだ。
テマリもシカマルに気が付いたのだろう。こちらを真っ直ぐに見やい、くいっと顎をしゃくる。
どうやら早く来い、とでも言っているようだ。


シカマルは「チッ」と舌打ちを一つ落とし、一気に重くなった足取りでそこに辿り着く。

「何をちんたらしているんだ」

出迎えの言葉もなく、テマリは苛立たしげにそう言い放つ。

「お前なぁ・・・」

思わず文句を言いたくなったシカマルだが、それすら面倒に感じて口を噤む。正直、今はテマリ
と言い争う気にもなれなかった。
疲れの滲むシカマルに、テマリもさすがに言い過ぎたと思ったのか、バツが悪そうに横を向くと
「すまん」と小さな声で呟いた。
それに驚いたのはシカマル、である。

「何かあったのかよ・・・」

確かに、口は悪いが、テマリは比較的常識人である。先ほどの態度も、普段冷静な彼女からして
みればやや感情的過ぎるものではあった。
それに、砂にはこれから一旦戻るとの伝書は放っていたが、わざわざテマリがここまで出迎えに
来ること自体がおかしなことだ。


(風影邸に戻る前に、話さなきゃいけない事があるってこと、か・・・)

多分、そういうことなのだろうと、シカマルは半ば諦めたように大きく息を吐く。
こういった時の諦めの良さは、ピカイチかもしれない・・・。
そんな、ある意味自虐的なことを考えつつも、シカマルは腕を組み、テマリを見やう。


「本当に、すまん・・・。疲れているのは、わかっている。だが・・・」

テマリも少し、困惑したような表情を浮かべている。

「何、らしくないこと言ってやがる。別に気にしちゃいねぇよ。それより、言いたい事があるなら
とっとと言ってくれ・・・」

いつものようにケンカを売られるのもどうかと思うが、こんな風にテマリに愁傷になられるのも
どうにも落ち着かない・・・。

「そう、だな。とりあえず、こっちだ」

そう言って歩き出すテマリの後ろを、シカマルは黙ったままついて行く。
しばらく歩くと、テマリはとある建物の前で立ち止まる。その建物の入り口には大きな紺色の
暖簾が掛けられており、それを手で払いながら、テマリはその中へと入っていく。
シカマルも同じようにそれに手を掛けると『宿屋風間』と書かれた白い文字が目に入った。

(宿屋、・・・ねぇ。しかし、休ませてくれるとは思えねぇなぁ・・・)

そんなことを思いながら、シカマルも後に続く。
中には、誰もいない−−−。それでも、テマリは気にした風もなく、そのまま奥へと進んでいく。

「おい、いいのか?」

思わずそう言ったシカマルに、「あぁ、話は通してある」とだけ言って、テマリは更に進む。
途中には結界が張ってあった。テマリは印を結びそれを解くと、二人が通り過ぎてから、再びそ
れを閉じる。かなり高度な結界だ。
そして、一室の前でようやく立ち止まった。

「我愛羅、入るぞ」

テマリがそう中に向かって声を掛けるが、返事らしいものは返ってこない。それでも、テマリは
迷うことなく、目の前の襖を横に引く。


テマリの背中越しにシカマルが中を見やえば、風影邸にいるはずの我愛羅が確かにそこにいた。
さらに、その傍らにはカンクロウ。

「これはまた、お揃いで・・・」

シカマルは溜息混じりに、そう呟くしかなかった。



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