小説(long)

□一片に、舞う 第4章
1ページ/5ページ


第4章-2


「随分遅かったな、サスケ・・・」

僅かに怒りを含んだシカマルの声が響く。
しかし、サスケはそれに「あぁ」と頷いただけで、気だるげに重吾の傍らに腰を下ろす。

どうやら今の状況に全く気が付いていないらしい・・・。
香燐はシカマルの目の前に座っていたため、そのこめかみにピクピクと血管が浮き上がってい
るのが見え、僅かに身体を強張らせていた。

(めっちゃ怒ってるわ、この男・・・)

しかし、それは仕方がないことだと、香燐も思う。
実は、あれから既に丸一日が過ぎようとしているのだ。


「あ、あの子はどうしたん?」

この微妙な緊張感を拭い去るため、至極軽めにサスケに声を掛ける。
それに顔を顰めつつも、サスケは前髪をかき上げながら、

「・・・まだ寝てる。・・・随分、泣いたからな・・・」

と、さらりと言ってのける。

(って、・・・サスケが泣かし、っていうかっ、鳴かしたってことっ?!そうよねっ!いやーんっ、
サスケったら、もうっ!)

心の中で叫びつつ、さすがにシカマルを前にそれを言葉にする勇気のない香燐は顔を引きつら
せつつも笑顔を浮かべ、「そ、そう・・・」と静かに答えた。


そして、沈黙・・・。
香燐はこの場にいたことを思わず後悔せずにはいられなかった。
水月は待ちくたびれて寝てしまっているし、重吾に会話は期待できない。
そして、周りを気にしない図太い、いや生粋の俺様気質のサスケと、普段はそれほど感情は見
せないが、一旦怒らせたら怖そうなつり目の男の間で、香燐はビクビクと事の成り行きを見守
る他はないのだ。


しばらくして、ようやくその沈黙を破ったのは、どうやら色々諦めたらしいシカマルだった。

「まぁ、いい。どっちにしてもナルトはいない方が良かったからな・・・」

シカマルの言葉に、サスケが顔を上げる。


既に、重吾の口から聞かされた情報から、シカマルは幾つかの事実を確認していた。
まず、件の宗教団体についてだが、表向きは確かに民間の団体として認知されているが、その
中枢にはどうやら忍らしき者が何人かいるらしいこと。
抜け忍ではないようだが、どこの里の忍なのかは未だ不明。
彼らは信者とは一線を引き、あくまで教団の教祖である“巫女”を守護する存在なのだという。

そもそも、その教団の“尾獣信仰”の根底には、一人の巫女の存在があったのだ。
そして、その巫女は今、自分が“九尾の母親”であると公言しているらしい。
その噂がどこからか広まったことで、此処半年程で急に信者が増え始めたのだ。

宗教にはよくあることだ−−−。
それを最初に聞いた時、シカマルはそう思った。
しかし、その後に続いた重吾の言葉に、シカマルは耳を疑うしかなかった。

その巫女はかつて、とある国の姫でもあったのだと言う。但し、その国は先の大戦で滅び、
今はもう、ない。
そう、その国の名は、

『渦の国』−−−。


次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ