小説(long)

□一片に、舞う 第2章
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第2章-2


薄暗い道を、その男は導き手の後に続き、ゆっくりと歩く。

「相変らず、陰気くさい場所ですね・・・」

そう、呟いてはみるものの、男はこういった場所は嫌いではない。
正直、懐かしさすら、感じる。

しかし、そんな自分の呟きに、前を行く者は僅かに振り向くと明らかに怒りと侮蔑を込めた視線
を向けてくる。
どうやら、怒らせてしまったらしい・・・。
とは言っても、自分は最初から余り歓迎されていなかったようなので、彼らの態度はいつもこん
な感じだったが・・・。


まぁ、わからないでもないが、手を組んだ以上はもう少し心を開いてくれても良さそうなものな
のに・・・。
そんなことを思いながら、男はわざとらしく笑みを浮かべ、首を竦めてみせた。



男は足元を注意しながら、歩みを進める。
一応は、人が通れるように足元は均され、灯りも所々に用意はされている。
しかし、自然に出来た洞窟に僅かに手が加えられた程度の道である。

話によると、彼らがこの地に辿り着き、この場所を根城としたのはもう三十年近く前だと言う。
それだけ長い間生活してきた場所ならば、もう少し何とかならなかったのか?
と、思わず男が嘆いてしまう程、お粗末な根城なのだ。


しかし、それも仕方がないのかとも思う。
彼らにとって大切なのは“信仰”であり、自分達の生活の良し悪しなど大した問題ではない。
毎日毎日、祈り続ける。それだけの、生活。

男には宗教といったものはよくわからないが、何かに心底心酔する気持ち、傾倒してしまう気持ち
はわからなくもない。
けれど、ただただ祈り続けることで“救われる”と信じる彼らの信仰とやらは、どうも性に合わない。
いや、別に否定しようとは思っていないのだが。
と言うより、そんな事は正直、男にはどうでもいい事だった。



「彼の方の体調は最近どうなんですか?」

沈黙にも飽き、男は前に向かって声を掛ける。
どうせ、返事などは返ってこないだろうと思っていたのだが、「あなたの心配は無用です」と、
突如、背後から声が響いた。
僅かに眉を寄せ、男は立ち止まる。


(この僕が気付かないなんて、ね・・・)

ゆっくり振り返れば、そこには一人の男が立っている。何度か会ったことのある顔、だ。
恐らく教団の幹部だろう。
年は、四十を少し超えた位だろうか・・・。しかし、その体躯はまだしっかりとしており、瞳は強い
光を湛えている。
里を失い、老いぼれても尚、『忍』、か・・・。
男は思わず、失笑した。


「椎名様、なぜ、こちらに・・・?」

男を案内してきた者が深々と頭を下げながら、そう問う。

「いや、不穏な気配がしたんでな・・・」

そう言って、椎名と呼ばれたその幹部は、真っ直ぐに男を睨みつける。

「しかし、・・・これは、失礼した。あなただったとは、ね。今日は何をしにいらしたのですか?」

かなりトゲのある言い方に、男は小さく一つ溜息を付いてから、笑みを返す。

「僕は、彼の方のお身体を心配しているのですよ。大切な、お身体ですからね。今、何かあっては
僕が困ってしまうんですよ」

男の言葉に、椎名は表情を動かすことなく、

「ならば、心配は無用。お引き取りを」

と静かに言い放つ。
男は目を瞑り、やれやれと首を振った。



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