小説(long)

□君を思う、あの空の下
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【最終章】帰る場所(中)


暗い空間、修一郎の手によって、ゆっくりと蝋燭の明かりが灯る。
シカマル、ネジ、なると、サスケの4人は、黙ったまま、修一郎の動きを見守っていた。

如月邸の地下の一室、此処にあの男、如月耶一郎がいるという。
目の前にある、大きな扉。
ゆっくりと、修一郎はそこに歩み寄り、袖元から赤い布袋を取り出す。
それを紐解き、中から一本の大きな鍵を出す。


「一つ、言っておかなければならないことがあります」

修一郎は静かに4人を見渡す。

「祖父は、数年前からここに自ら閉じこもってしまいました。ここは、如月家の蔵書
を保管する書庫、でした。私が幼い頃から、祖父は調べ物をすると言っては、よく、
此処に篭っておりました。けれど、・・・」

いつからでしょうか・・・。
修一郎はそっと目を伏せる。

「祖父は、だんだんと此処から出てこなくなりました。今では、こうして私に鍵を
預け、自分から出てくることは一切なくなりました」

静かに、響く声。

「祖父は、確かに此処に居ます。けれど、あなた達が知りたいと思うことが、今の
祖父から聞けるかどうか・・・」

修一郎はゆるゆると首を振る。
シカマルは一旦、三人を見やり、静かに問う。

「それは、・・・どういうことなのでしょうか・・・?」

確かに、此処にいる。けれど、話が聞けないというのはどういうことなのか。
まさか・・・。

「いえ、祖父は存命、しております・・・」

シカマルが何を考えたのか、察したらしい。修一郎は静かに、そう答える。
しかし、修一郎の声色は、僅かに変化した。

「それでは、なぜ・・・?」

シカマルは再び、問う。

「ご覧になれば、わかります。けれど、出来れば、・・・私はあなた達を祖父にあわせ
たくない・・・。もう、これ以上・・・」

祖父を苦しめたくは、ない・・・。

「私は、祖父が大好きでした。私の父は、私が生まれる少し前に、この家の当主を
継ぎました。その頃は、この家もまだ、国有数の大名家として栄えておりました。
だから、いつも忙しく、私は父にかまってもらった記憶がほとんどありません。
その分、祖父が、私の面倒を見てくれました」

私が書物に興味を持ったのも、祖父の影響なんです。
そう言って、修一郎は僅かに笑みを漏らす。

「祖父は、いつも熱心に本を読んでおりました。確かに、政に関しては、強引で、
国でも有名な武門派であった人、です。けれど、本当は、静かに何かを研究したりする
ことが好きな人、だったんです」

そう言って、修一郎は4人を見やう。

「祖父が、かつて、何をしようとしたのか・・・、私も知っております。祖父の手記を、
読みました。・・・けれど、私は、・・・」

信じたいの、です。

国の為に、弥一郎は“ある物”を使って、強大な力を得ようと、した。
それには、多くの犠牲を必要とする。悲しみに暮れる人々を、たくさん生む。
初めてその事実を知ったとき、修一郎は祖父を怖いと思った。
なぜ、自分にこんなにも優しい祖父が、そんなことをしようとしたのか・・・。
なぜ、そこまでして“力”が欲しかったのか、と・・・。

余りにも、残酷なことだ、と。



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