小説(long)

□君を思う、あの空の下
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【第6章】新たな始まり


火影邸の地下へと続く階段を、サクラは一歩一歩踏みしめながら、進む。
目の前には綱手の背中。
その後について進む先、そこには二人がいる・・・。


火影室で一人待っている間、正直、何度も逃げ出しそうになった。
二人に会う決心をして、此処に来た。
そう、決めたこと。
いつまでも、このままじゃいられない。前に進めない。だから・・・。


二人が“生きている”−−−。
そのことを知って、素直に嬉しかった。自然と、涙が頬を伝うほどに、嬉しかったのだ。
けれど、その姿を見たとき、幼くなった二人を目にしたとき、どうしようもない感情が
サクラを襲った。

(ああ、これが答えなのか・・・)

そう、思った。
3年間、待って、待って、待ち続けて、その答えが、これなのだと。
何故、なんだろう。何で、こんな現実しかないんだろう・・・。

望んでいたものは、こんな『現実』ではなかった。
そう、サクラはどこかで思っていたのだ。
二人が戻って来さえすれば、無事に戻って来てくれさえすれば、元に戻れると・・・。
自分はもう、子どもではない。
二人への嫉妬も、妬みも、今まで抱えてきた感情、想いが、消えてなくなるわけでは
ないけれど、きっとそういったもの全て、乗り越えていける−−−。
二人を笑って、迎えてあげられる。
それが出来るくらい、大人になったのだと。

それなのに・・・。


目にした現実は、サクラのささやかな希望を打ち砕くには十分だった。
元に、戻れる・・・?
思わず、笑が込み上げた。
明確に示された、二人との距離・・・。
例え、無事だったとしても、これから二人がこの里で生きていくのだとしても、
その傍にはもう、自分の居場所など、ない。

夢を見ていたのだと、思う。自分に都合の良い夢・・・。
自分の弱さを、醜さを、ごまかすために。


けれど、ようやく『現実』を知った。自分ではどうにもならない、こと。
世の中にはきっと、そんなものがたくさんあるのだ。

だから、決別するために、此処にきたのだ。
悩んで、苦しんだ分、2、3発二人を殴って、言いたいことを言って、すっきりさせて、
終わらせよう。そして、前に進むのだ。自分の道を、進むのだ。
勝手かもしれない。けれど、それくらい許して欲しいと思う。

そう、心に決めて、此処に来た。それなのに・・・。
いざとなると、こんなにも、怖い。二人に会うのが、怖かった。
二人は大人になった自分を見て、どう思うのだろうか。それとも、そんな思いすら
浮かばないほど、自分の存在は二人に必要のないものなのだろうか・・・。

自虐的な考えばかりが、頭を過ぎる。


火影室に綱手が現れたとき、サクラは思わずその顔を伏せた。
『二人に会いたい』、そう言ったのは自分だ。
けれど、今、自分はどれだけ情けない顔をしているのだろうか。


「サクラ・・・」

綱手は優しくサクラの肩を抱き、その頭を撫でた。

「よく、来たな。つらいのは、わかっている。だが、動かねば何も始まらん」

綱手の言葉に、サクラは黙ったまま頷く。そうすることしか、できなかった。

「考えすぎるな。二人に会って、思ったことを言えばいい。そうだな、殴っても構わんぞ」

そういや、私は殴り損ねたな。
そう言って綱手は笑い、サクラの背を押す。


「さぁ、行こう」

綱手は有無を言わさず、歩き出す。サクラにはそれが綱手の優しさなのだと、痛いほど
わかっていた。
だから、もう、逃げる訳にはいかない・・・。
自分が歩き出さなければ、いけないのだ。



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