小説(short)

□希望
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□□ 希望 □□


今年も、あとわずかであの日が来る。
九尾が里を襲い、多くの人々が死んだ日。
里は静かに、悲しみをその胸に抱き、そしてその怒り憎しみを決して忘れることなく、その日を迎える。

その日に、自分は生まれた−−−。

誕生日は、誰もがこの世に生を受けたことを祝ってもらえる日だということは知っていた。
その日は、ケーキを食べて、プレゼントを貰って、『おめでとう』って、言って貰える日。

自分にそれが与えられないのは、たまたまその日に生を受けてしまったからなのだと、思っていた。

けれど、三代目のじっちゃんは、この日が来るたびに、自分を隠す。
火影邸の一室に、『今日はここでゆっくり休んでおるんじゃ・・・』、そう言って、閉じ込める。
静かな時間、長い時間。
その日一日、俺はただ、その部屋で蹲っているしかなかった。

正直、不思議で仕方なかった。
たまたま、この日に生まれてしまったことは、仕方ない。みんなが悲しみに暮れている中で、自分の
誕生日を祝って欲しいなどとは、思っていなかったから。
大丈夫なのに・・・。我が侭なんて、言わないのに・・・。
せめて、皆と同じように、皆と一緒に、里の一員として死者を弔いたいと、思ってた。

そう、去年までは、何も知らなかったから。

なんで、自分が里の大人たちからこれほど忌み嫌われているかも、わからなかった。
誰も、それを教えてはくれなかったから、どうすることもできなかった。

知ってしまえば、納得せざるを得ない。

自分の中に『九尾』が、いる−−−。

だから・・・。


別に望んだことじゃない。俺が悪い訳じゃない。そう、思ったのも確かだったけれど、それよりも、
『理由』がわかったことに、安堵した。
辛くなかったと言えば、嘘になる。けれど・・・。
じっちゃんや、イルカ先生がこんな自分に優しくしてくれたことに、感謝した。

その気持ちが、痛いほど、わかったから。

誰も、憎むことなんてできない。誰も、責めることなんて、できない。


事実を知って、初めて迎える誕生日。
その日が刻一刻と迫る度、眠れない日が続く。
受け止めなければならないと、思う。もう、何も知らない子どもでは、なくなってしまったのだから。

その日に向けられる怒り、憎しみは全て、自分に向けられているものなのだと、知ってしまったの
だから・・・。



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