小説(short)
□あの日の君と(下)
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ずっと、『復讐』のことだけを考えてきた。
そのために、『強くなること』だけを考えてきた。
自分には、それしかなかった。
だから、何であの時“死んでもいい”と思ったのか、今でもわからない。
『此処で死ぬなら、それまでの人間だったってことだ』
そう、確かに思った。
けれど、あいつじゃなかったら、俺はどうしていただろうか・・・。
同じ事を、していただろうか・・・。
同じように、“死んでもいい”と、思っただろうか−−−。
□□ あの日の君と(下)□□
騒がしいヤツ。
アカデミーで初めてなるとを見たとき、そう、思った。
忍術もまともに使えない、落ちこぼれ。
毎日、いたずらばかりして、その度にこっぴどく叱られて。
まるで、そうしなければいけないかのうように、繰り返す、それ。
けれど、クラスではいつもヘラヘラ笑っているくせに、放課後になると、いつも一人で、いた。
そのことに、いつから気付いたのだろうか・・・。
自分も一人、だったからだろうか。
何となく、気になる存在、ではあった。
けれど、自分には関係ない存在、でもあった。
『あいつを、殺す−−−』
自分には、それが全てだった。
他人など、関係ない。
そう、思っていた。
アカデミーを卒業して、組まされたスリーマンセル。
そこに、なるとが、いた。
相変わらずドベで、ヘマばかりしては、チームに迷惑をかける。
足手纏いだ、と思っていた。
それでも、なぜかほってはおけなかった。
なるとと一緒にいると、らしくない自分に気付く。
大声で罵りあうことも、なるととしかしたことはない。
何かに、馬鹿みたいに一生懸命になることも、なかった。
いつも、つっかかってくるのは、なるとだった。
最初は本気でウザイと思っていたのに、いつのまにかそれにも慣れてしまった。
それどころか、なるとが少し大人しいだけで、どうしていいかわからなく、なった。
人との付き合いで、こんなにも自分が揺れたことは、ない。
正直、どうしていいか、わからなかった。
嫌いな訳じゃ、ない。
いつも一生懸命な、なると。
どんなときでも、真っ直ぐに前を向いて、突っ走ることができる。それは、一つの強さだと、思う。
あいつがいるだけで、周りは賑やかになる。
どんどん周りを引き込んで、動かしていく。
人との関わり合いを避けていた自分には、ない、もの。
眩しくて、自分は触れてはいけないと、思った。
触れてしまえば、自分が自分でなくなりそうな、不安・・・。
それでも、何故か求めてしまう、それ。
近づけば近づくほど、離れられなくなりそうで・・・。
けれど、もう、裏切られるのはごめんだった。失うのが、傷つくのが、何より怖かった−−−。
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