小説(short)

□黒猫と焦燥
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なっ、何だ?!どうなってんだっ?

サスケは思わず心の中で叫んだ。
水面に映し出された自分、それはいつも見慣れた自分ではない・・・。
それは酷く小さい、黒い生き物。
サスケは呆然とその姿を見つめた−−−。


□□ 黒猫と焦燥 □□


<1>


今日は珍しく任務が休みだった。下忍になって数ヶ月、任務という雑務をこなす日々の中、
久しぶりに与えられた休日。
だからといって、特にやることがあるわけでもなく、サスケは朝から独り修行に来ていた。
それはいつも行く修行場ではなく、里の東側にある森の中・・・。


何となく“あいつ”に会いづらい−−−。
サスケは昨日の出来事を思い出し、顔をしかめる。
ケンカなんていつものことだが、昨日は少し勝手が違った。
イライラしていた。自分の感情を上手くコントロールすることができなかったのだ。どうしてなの
かはよくわからない・・・。
サスケとなるとが言い争うことなんて、そんなことは日常茶飯事で、担当上忍であるカカシも、もう一人
のチームメイトであるサクラも、「あぁ、またか・・・」といった顔で見ていた。
けれど、昨日は違ったのだ。

(俺は、なるとを・・・傷つけた・・・)


ことの発端はペアで行った子猫の救出−−−。
なんでそんなところにいるのかと思うほど、急な崖、その途中の僅かな岩場に、その猫はいた。
やせこけた、薄茶色をした子猫だった。
多少、危険ではあるが、下忍とはいえ忍は忍。これくらいなら一人でもできる。
サスケはとっとと終わらせようと、早々に近くの岩場に飛び降りた。

「ああ、お前ら。これ一応修行だからね。二人で力合わせて助けることー」

チームワークが大切だからねー。

カカシの言葉に、サスケは思わずチッと、舌打ちする。


「なあなあ、サスケ。あの猫、怯えてるってば・・・」

少し離れた岩場に降り立ったなるとが、心配そうに子猫を見やる。
確かに、その猫は僅かに振るえ、怯えた瞳で俺たち二人を交互に見ている。まあ、知らない人間
が近づいていけば、警戒心の強い猫のことだ、当たり前のことだろう。
サスケはさして気にすることもなく、一気に近づき、その猫に手を伸ばす。

「あっ、サスケ!急に近づいたらだめだってばっ」


子猫は身体をビクッと震わせ、そのまま後ろに後ずさる。その先にはもう足場はない。

「っっ・・・!」

気づいたときには、子猫の姿はゆっくりと崖の底に向かって落ちていく・・・。
唖然とするサスケの視界になるとの姿が映った。
落ちていく猫の後を追って、なるとが飛び降りたのだ。

「なっ、・・・バカヤロウ!」

サスケは思わず叫ぶ。
なるとは自分も落ちていく中で、その手に猫を掴み、そのまま胸の中に抱え込む。

「くそっ」

持っていた縄に素早く細工をし、それをなると目掛けて投げつける。
縄がなるとの身体に絡みついたのを確認し、思い切りそれを引く。

「うっ・・・、ぐぇっ!?」

なるとのうめき声が聞こえたが、構わず力任せに引き上げる。
正直、焦ってもいたのだ。
夢中で縄を引き寄せ、なるとの身体をなんとか自分のところまで引き上げた俺は、思わずその場
にへたり込んだ。


「お前らねぇ、何やってんの・・・」

カカシがため息交じりにつぶやくのが聞こえ、サスケはようやくその身を起こす。
視線の先、なるとは猫を抱えたまま、呆然とその場に座り込んでいた。

「何、やってんだよっ、このドベっ!」

サスケは内心ホッとしながらも、思わずなるとを怒鳴りつけていた。



「何で、だってばっ?」

なるとは胸に抱えた猫をそっと抱きしめ、つぶやいた。
その瞳は、空を見つめたまま、揺れている。
サスケの心臓がキリリと痛む。自分が放った言葉の無神経さにも気が付いていた。
そう、なるとを責めるのは間違っている。今回のことは、明らかに自分の過失だ・・・。
わかってる・・・、わかっているのに、素直に謝罪の言葉すら言えない自分に腹が立った。


ようやくカカシとサクラのいる所へ戻ると、なるとは黙って胸に抱えていた猫をカカシに手渡した。

「任務完了・・・。けど、二人ともこれじゃあ“忍”としては失格だ」

カカシは眉をひそめて言った。

「お前たちね、いい加減にしないと、本当に大切なものを失うよ?」

なるとは黙ったまま唇を噛み締めていた。



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