最期のステンドグラス
□こうして僕らは
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ゴーン ゴーン…
教会の重たくてよく響く鐘の音がこの街に虚しく響く。
雲だけが流れる空を仰ぎ見てから呟いた。
「心惑いし精霊よ、今暫し眠りたまえ…」
目を閉じ、自分の指を絡めながらそう言った。
鐘の音が響き終えた瞬間、この街には活気が戻って来る。
この街は不思議な街。
精霊がさ迷う街。
僕がいる街。
"スピリット=ロードナイト"
そう呼ばれなくなったのはいつだろうか。
「今は、僕の名前ではないものだ」
少し低めのテノールボイスで呟いたパープルの艶やかなロングヘアーをなびかせた"少年"。
彼は容姿的には12歳程度だが、実は100歳を越えているのだ。
ぴょんぴょんと簡単に建物を飛び越えていき、教会の鐘の隣へと立つ。
「僕は…、僕には何も無いと言うのですか…?」
涙声で独り言のように呟いてから崩れ落ちてしまった彼の瞳からは雫が溢れていた。
(僕には何も残ってはいない。名前も、体も、自分も、何もかも)
そう、彼には体も名前も無い。
既に"死に絶えているのだから"。
それなのにここに居るのは、彼が精霊であるからかもしれない。
死に絶えた無数の魂で構成される1つの躯(巣)。
その躯は人の目には捉えることの出来ない躯。
無数の魂で構成された躯にはその魂が持つ記憶が凝縮されている。
その躯の中の1つの魂だけが今こうやって外へ出ているのだ。
つまり、"多重人格"とでも言うのかもしれない。
「もう一度、人間に戻りたい。もう一度皆と話したい…」
『話くらいなら私としない?』
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