緋色の書簡

□HAPPY BIRTHDAY 拓磨!
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……避けられている。

そうとしか例えようがないくらいに、拓磨は珠紀にそのように感じるようになったのは、つい最近の事だった―――。













HAPPY BIRTHDAY 拓磨!














それは随分前のことだ。いつも一緒に下校していた珠紀から突然、今日からしばらくの間は一緒に帰れない事情ができたと告げられた。

理由はその事情が終わったら話すとも言われた。

随分前といっても、四月下旬を少し過ぎたあたりからだ。

しかし、その日から日を追うごとに、誰から見ても明らかに珠紀は拓磨を避けるようになった。

その事で、真弘や遼にからかわれたが、拓磨が今回の事情を話せば、遼は眉をひそめたが、真弘はどこか納得したような顔をしたのだった。

さらには―――。



『ま、それもあとちょっとの辛抱なんじゃね?』



たったそれだけを拓磨に告げると、その場を去ってしまった。

思わず遼と顔を見合わせかけるが、なんとなく自制心が働いてそうなることはなかった。

そして拓磨は、屋上に遼一人を残して、自分の教室に戻るのだった。



「きゃっ……!」



教室のドアを開こうとしたと同時に、そのドアが開き、拓磨の胸に珠紀が飛び込んできた。
正確には、ぶつかった―――というのが、正しいかもしれない。

「…っと、大丈夫か?」

「あたたた……。あ、拓磨。うん、平気」

鼻の頭を押さえながら珠紀は言うが、拓磨はそこのどこが平気なんだと内心でツッコミを入れていた。

「珠紀、今日は……」
「ゴメン、拓磨。ちょっと急いでるから、話はまた後でね!」

「…て、おい!」

拓磨の言葉を遮るようにして、珠紀は教室を飛び出して行った。

「……サボりなんて、珍しいな」

去っていく珠紀の後ろ姿を見た拓磨は、ぼそりとそう呟くしかなく、教室へ入るが―――。










¶  ¶  ¶











今の拓磨はすこぶる機嫌が悪かった。

その原因は、先ほどまでにクラスメート達に囲まれ、根掘り葉掘りと徹底的に追究されたからだ。

しかも、別れる事が前提にされたので、さらに性質が悪い。

そのうえ、女子だけならまだしも、鬼斬丸の件が収まる前から珠紀に気があった男子連中にも答えを求められた。



「そんなんじゃねぇっ!!」



結局は怒鳴って群集を黙らせ、自分の席に乱暴に座ったのだった。

ちなみに、拓磨の不機嫌オーラはかなりの殺気を含んでいるためなのか、彼の隣席の数名のクラスメート達及び、その授業を受け持った教諭は、生きた心地がしなかったそうだ。










¶  ¶  ¶











帰りのHRが終わってもなお、拓磨の機嫌がよくなる事はなかった。

それはさることながら、昼休みを境に、同じ内容の質問をしつこく繰り返されたからだ。



珠紀目当てのクラスメート達に―――。



拓磨に嬉々(きき)と尋ねに来る者達を、周りはなんという無謀ならぬ、怖いもの知らずというか……なんたる学習能力のない輩(やから)だと評価した。

そんな彼らのせいで、拓磨の堪忍袋の緒は盛大な音を立てて切れたが、手を出さない変わりに拓磨は彼らを睨みつけた。

拓磨の睨みには、(すさ)まじい殺気も含まれていたので、その静かな怒りにクラスメート達は真っ青になり、蜘蛛の子を散らすようにして自分の席へと逃げた。

その休み時間が終わり、今日最後の授業も帰りのHRが終わっても、拓磨の腸(はらわた)は煮え繰り返ったまま。

まだ鎮まらない怒りを持て余しつつ、拓磨は乱雑で荒々しくカバンに筆記用具や教科書、ノートなどを詰め込む。



 
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