緋色の書簡

□HAPPY BIRTHDAY 卓!
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珠紀に誕生日はいつなのかと聞かれた卓は、いつものように、にっこりと微笑みながら、彼女にこう答えた。

「実は、明日(あす)。九月八日が私の誕生日なんです」

その卓の答えを聞いた珠紀は、顔から血の気が引くのを自覚した。












HAPPY BIRTHDAY 卓!














今日も恋人である卓に、手料理をご馳走するために珠紀は、大蛇邸を訪れていた。

そして今、その夕食を終え、後片付けを終えた後の団欒にひたっているところだ。

珠紀はふと思って、何とは無しに卓に尋ねた。

「そういえば、卓さんの誕生日って、いつなんですか?」

「私の誕生日ですか?」

「はい、少し気になって……」

はにかむように笑っている珠紀は、照れているのか、ほんのりと頬をピンク色に染めていた。

そんな彼女に、いつものように微笑みながら、卓は言った。

「実は、明日。九月八日が私の誕生日なんです」

そう珠紀に教えると、一気に顔を青くしたのだった。

その珠紀の表情を見た卓は、おやと首を傾げる。

「どうかしましたか?」

尋ねても、貼り付けた笑みを保ったまま、珠紀は顔面蒼白のままでいた。

「……………明日なんですか?」

やっと彼女の口から出たのは、その言葉だった。

卓がそうですよ。と答えると、珠紀はさらに顔を青くさせて俯いた。

「珠紀さん?」

「どうしよう……」

恐る恐るとでもいうように、珠紀は顔を上げて卓を見る。

卓は、珠紀の顔が濡れていることに瞠目する。

「ご、ごめんなさい。卓さんの誕生日プレゼント……。私、用意してない……」

その言葉にも卓は驚くけれども、すぐに微笑む。

「大丈夫ですよ。私は気にしませんから」

「で、でも……」

不安げに卓を見つめる珠紀に、卓はうーん……と唸って考える。

何かひらめいたのか、うんと一つ頷くと、卓は彼女にこう言った。

「では、プレゼントの代わりにですが……。
明日のあなたの時間を、私にくれませんか?」

「え……?」

その提案に涙は引っ込んだものの、それを理解して珠紀は唖然とする。

「それって……。明日一日、卓さんと一緒に……ということですか?」

「ええ、そうですよ」

にこにこと笑いながら卓は言うけれども、珠紀はまだ不安だった。

「……そんな単純なことで、いいんですか?」

「ええ、あなたが構わないのであれば」

「……大丈夫ですよ。明日はちょうど日曜日ですし、これといった予定もありませんから」

しばし逡巡するが、珠紀はにっこりと無垢な笑顔で、卓との約束を承諾した。

「では、明日の朝にお迎えに上がりますね」

「はい、わかりました」

そらから珠紀は、宇賀谷邸まで卓に送られた。











  ¶  ¶  ¶












翌日の九月八日。

約束通り卓は、珠紀を迎えに宇賀谷邸を訪れた。

その時の珠紀は、パジャマを着たまま朝食をアリアと美鶴と共に食していたので、おおいに慌てふためいたという。


  :  :  :


身仕度を整えた珠紀は、卓が待つ玄関に行く。

「おはようございます、卓さん。お待たせしちゃったみたいで、すみません……」

少ししゅん……と、なりながら珠紀は卓に謝る。

「いえいえ、大して待っていませんよ」

「………本当ですか?」

不安げに見上げると、卓はいつもの笑顔で頷く。

「よかった……」

「それはそうと、珠紀さん。手ぶらでいいんですか?」

「…え?」

その卓の言葉に、珠紀は頭上に何個もの疑問符を浮かばせる。


「今日は私の家に泊まるのでしょう?」


………。

………………。

………………………。


「え――――――っ!?」


卓に言われた事を、ゆっくりと時間をかけて理解した珠紀は、耳や首筋まで赤くして絶叫した。

「な、な、な、ななな。なんで、そうなるんですか!」

「おや? 昨日、あなたが私に言いましたよ? 今日一日、あなたの時間を私にくれると」



 
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