緋色の書簡

□金魚すくい
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今年も暑い夏を迎え、季封村でも夏の風物詩を開催されることとなる。

珠紀も守護者であって、彼氏でもある拓磨を誘おうとしたが、神社の仕事やらいろいろとあって、休憩時間は去年の秋祭りと違って、皆無に等しいほどだった。











金魚すくい













当日はアリアとフィーアも助っ人――もとい、アルバイトしにくるとのことだが、あまりあてにできないと美鶴が言っていたので、珠紀も期待しないでおこうと考える。

祭りの準備期間も珠紀は、舞の練習と巫女の作法やらで、拓磨と一緒にいる時間も少なくなっていくこととなった。

そんな日々が続き、祭りの当日となった。

珠紀と美鶴、フィーアにアリア。
そして宮司役の慎司を含めた四人は、朝から神社の準備で家と蔵、境内を右往左往していた。そうこうしているうちに、日が暮れて祭りが始まる。




  :  :  :




「――百十四番ですね。こちらになります」

今回、珠紀はおみくじの係をアリアと一緒にすることになったのだが…。

「二番だな。――おまえは……もがっ!?」

「こちらになります」

焦って珠紀はアリアの口を塞ぎ、おみくじを客に渡す。

その珠紀の動作に、事情を知らない客は訝しげに二人を眺めながら去る。

客の背中が見えなくなったところで、珠紀はアリアの口元から手を離す。

「ぷはっ…! い、いきなり何をするのだ!?」

「それはこっちの台詞だよ……。また、教えようとしたでしょ?」

「む……」

「もう……。おみくじの結果は自分で見てこそ、醍醐味があるんだから。
それに、他の人が自分のと比べようとして、聞き耳立ててるかもしれないから、教えちゃダメだって言ってるのに……」

さっきからアリアは、彼女の所に来た客達の引いたおみくじの結果――大吉か小吉かなどを、教えていたのだ。

そのせいで、最初の客と二人目の客が、取っ組み合いを始めてしまい、大変な事になった。

たまたま美鶴と卓、そして慎司とフィーアが近くにいたので大事に至らなかったが、それからと言うもの、ほとんどの客が珠紀の方へ流れたので、休憩時間がとっくのとうに過ぎているのにも関わらず、お目付け役として珠紀はここにいなければならなくなった。

「………すまない」

あの取っ組み合いを直に見たので、すぐに思い出したようでアリアは詫びる。

「今度こそ、言っちゃダメだからね?」

それに微苦笑で応えて、持ち場に戻る。

それからは、アリアも努力してやっと珠紀のように、結果を言わずにおみくじを渡せるようになった。

……言葉遣いだけは、普段通りだったけれど…。




やはり結局は、拓磨も祭りの見回りの役を担う一人なので、珠紀もそのまま神社の手伝いを休憩無しで続けたので、二人とも会えず仕舞いに祭りの初日は終わった。











  ¶  ¶  ¶











翌日、祭りの最終日で日曜日のためなのか、昨日と比べて大人数の客が神社に参拝しに来て、珠紀達がいる所にぎゅうぎゅうに詰め寄った。

だが珠紀の方の列はなぜか、大半が学校で見かける青少年が占めていた。

さらに大概は、おみくじを引くためと、巫女姿の珠紀を拝みついでにナンパするという営業妨害も甚だしい物だった。

けれど、美鶴や卓がいたので当初は、なんとか捌けたのだが、美鶴がアリアと交代して、卓がこの場を離れてからは……。

「なあ、春日さん。休憩になったら――」

「すみません、神社の身内なので休憩時間は無いんです」


―――………………


「お、春日。巫女姿、すげー似合うじゃん。どうだ? この後――」

「はい、六十九番はこちらになります」

「お、サンキュー♪」

「おまえ! 気安く珠紀に触るな!」

これでもかこれでもか、とでも云うように。
同じような顔触れが、珠紀の列に何度も並んでは玉砕の繰り返しをしていた。

時たまおみくじを渡す珠紀の手を、なかなか離さない輩も出て、アリアが応戦してくれるのだが、なかなか後を絶たなかった。

このようになんとか捌くものの、さすがに珠紀も辟易する。

しかも、鳥肌も目立ち始めていた。
しまいには、蕁麻疹(じんましん)を起こすのではないかと危惧する。







 
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