緋色の書簡
□七夕
1ページ/8ページ
「おーい、珠紀。そっち支えてくれーっ」
「あ、はーい」
珠紀は真弘に言われ、拓磨とは反対の場所でそれを支える。
「…なんか、おまえ。楽しそうだな」
少し呆れたように、それを支えながら拓磨は言った。
それに珠紀は、屈託なく頷く。
「うん。だって、都会だと毎年この日は、絶対に雨か曇りなんだもん…。それに…」
「ん?」
「うまくいけば、初めて天の川を見ることができるんだもん」
そう極上の笑みで珠紀は応えると、その笑顔を間近で見た拓磨は赤面して珠紀から視線を逸らす。
「拓磨? どうかしたの?顔が赤いけど…」
「……」
拓磨はだんまりになってしまい、また珠紀と視線を合わせてくれなくなった。
その拓磨の態度に、とうとう珠紀はふて腐れてしまう。
その二人を脚立の上から見ていた真弘は、拓磨の気持ちが少しだけわかる気がした。
本人は自覚はないがある意味、珠紀の笑顔は凶器なのだ。
言い換えると、珠紀の笑顔が魅力的なのだ。
フィーア……フィオナ先生の笑顔のように、大人の女性の妖艶さや色艶があるわけではないが、ひきつける何かがある。
「おーい。ご両人、なーにやってんだ? 早くしねぇと、あんのクソ生意気なチビッコとフィオナ先生が来ちまうぞ!?」
その真弘の声で、二人は気を取り直して、作業にとりかかった。
七夕
ことの発端は、珠紀の一言だった。
「今年の七月七日って、晴れるかなぁ…?」
その日、たまたま守護者全員と、アリアとフィーアを交えて夕食を食べていた。
その時、ぽつりと珠紀が漏らしたのだ。
「ああ、確か今週の土曜日でしたね。大丈夫ですよ、珠紀さん。天気予報では、来週末までは保ってくれるそうですから」
そう卓が答えると、珠紀は少し驚く。
珠紀本人は、独り言のつもりだったのだろうが、普通の音量だった。
けれど、彼女は卓の言葉で目を輝かせた。
「本当ですか、卓さん」
「ええ、毎日チェックしていますから」
「珠紀様」
ここで、美鶴に声をかけられて、珠紀は割烹着姿の美鶴に視線を向ける。
「なに、美鶴ちゃん」
「はい、七夕の日に何かあるのですか?」
美鶴は不思議そうに、珠紀に尋ねる。
「…フィーア、‘たなばた’とはなんだ?」
ここで今まで黙っていたアリアが、フィオナの姿をしているフィーアに七夕のことで尋ねる。
そこでアリアを除いた全員が、珠紀の意図を正確に読み取る。
「申し訳ありません、アリア様。私にもさっぱり……あ、春日さん。食後にでもあなたから、アリア様に‘七夕’について教えてさしあげられないかしら?」
そのフィーアの言葉に、珠紀は驚くが、そんな珠紀にフィーアはウィンクを送る。