緋色の書簡

□七夕
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「おーい、珠紀。そっち支えてくれーっ」

「あ、はーい」

珠紀は真弘に言われ、拓磨とは反対の場所でそれを支える。

「…なんか、おまえ。楽しそうだな」

少し呆れたように、それを支えながら拓磨は言った。

それに珠紀は、屈託なく頷く。

「うん。だって、都会だと毎年この日は、絶対に雨か曇りなんだもん…。それに…」

「ん?」

「うまくいけば、初めて天の川を見ることができるんだもん」

そう極上の笑みで珠紀は応えると、その笑顔を間近で見た拓磨は赤面して珠紀から視線を逸らす。

「拓磨? どうかしたの?顔が赤いけど…」

「……」

拓磨はだんまりになってしまい、また珠紀と視線を合わせてくれなくなった。

その拓磨の態度に、とうとう珠紀はふて腐れてしまう。

その二人を脚立の上から見ていた真弘は、拓磨の気持ちが少しだけわかる気がした。

本人は自覚はないがある意味、珠紀の笑顔は凶器なのだ。
言い換えると、珠紀の笑顔が魅力的なのだ。

フィーア……フィオナ先生の笑顔のように、大人の女性の妖艶さや色艶があるわけではないが、ひきつける何かがある。

「おーい。ご両人、なーにやってんだ? 早くしねぇと、あんのクソ生意気なチビッコとフィオナ先生が来ちまうぞ!?」

その真弘の声で、二人は気を取り直して、作業にとりかかった。











七夕












ことの発端は、珠紀の一言だった。

「今年の七月七日って、晴れるかなぁ…?」

その日、たまたま守護者全員と、アリアとフィーアを交えて夕食を食べていた。

その時、ぽつりと珠紀が漏らしたのだ。

「ああ、確か今週の土曜日でしたね。大丈夫ですよ、珠紀さん。天気予報では、来週末までは保ってくれるそうですから」

そう卓が答えると、珠紀は少し驚く。

珠紀本人は、独り言のつもりだったのだろうが、普通の音量だった。

けれど、彼女は卓の言葉で目を輝かせた。

「本当ですか、卓さん」

「ええ、毎日チェックしていますから」

「珠紀様」

ここで、美鶴に声をかけられて、珠紀は割烹着姿の美鶴に視線を向ける。

「なに、美鶴ちゃん」

「はい、七夕の日に何かあるのですか?」

美鶴は不思議そうに、珠紀に尋ねる。

「…フィーア、‘たなばた’とはなんだ?」

ここで今まで黙っていたアリアが、フィオナの姿をしているフィーアに七夕のことで尋ねる。

そこでアリアを除いた全員が、珠紀の意図を正確に読み取る。

「申し訳ありません、アリア様。私にもさっぱり……あ、春日さん。食後にでもあなたから、アリア様に‘七夕’について教えてさしあげられないかしら?」

そのフィーアの言葉に、珠紀は驚くが、そんな珠紀にフィーアはウィンクを送る。



 
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