×白or×骸本棚

□メリークリスマス!!!
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キリスト文化の街は、クリスマスともなればキラキラと美しいイルミネーションに彩られ、石畳の細道をひっそりとカップルが歩んでいく。

もう、子供達は家でケーキでも食べている頃時間だろうか。

腕時計を見てふと息を零せば、白く吐き出されるそれ。
外の寒さを物語るような白い吐息は、自分がどれだけの時間ここにいたかを思い知らせるのようで少々不愉快だった。

「何をしているんだ、あの人は」

そもそもクリスマスにデートしたいと言ったのはあの人なのに。
待ち合わせ時間からもう3時間は経っている。
そろそろ帰ってしまっても良い頃ながら、僕は帰れなかった。
意地、とでも言おうか。
競争率の高いあの白蘭さんを射ち落とした自分の。
ここで帰ってしまっては、同じく白蘭さんを狙っていた男達にバカにされるだろう。
そんなのは不愉快だ。
僕がけなされるなんて…不愉快すぎる。
ふるふると首を横に振ることでネガティブな方向へ向かっていた思考を戻す。
そしてもう一度時計を確認した。

3時間待った、と認識してからさらに15分。

「ごっめーん!!!」

という飄々とした声を聞いて、あぁ、やっと来たかと振り返る。

もこもこに着込んだ白蘭さんが走っていた。

「何、僕よりあったかそうな格好してるんですか」

「ごめ、んね。正チャン、はぁ、疲れた…」

「ものすごい遅刻ですね」

「うん、ごめん」

乱れた息を整えながら、何時もの笑顔の白蘭さん。

「…………」

僕は打って変わって沈黙。
何で遅刻したんですか、と睨むように白蘭さんを見ると、白蘭さんは困ったように視線をそらした。

「隠し事ですか?」

「隠し事ってわけじゃないよ」

隠し事をしているとバレバレなのに、敢えて隠してないというその言葉にイラついた。

「何で言ってくれないんですか」

「何でって…秘密だから」

「…僕に隠し事するんですか」

「隠し事くらい正チャンだってしてるでしょ?」

「僕はしてません!」

思わず怒鳴る。
周りにはすでに人はいない。
皆、どこか2人きりになえる場所へと行ってしまったらしい。
しん、と静まり返った街に、僕の声は想像以上に響いた。

「してるじゃない、現在進行形で」

素っ気無いような白蘭さんの態度。

待っててやったのに、何だよその態度。

また苛立ちが募る。

「何をしてるっていうんですか!?」

わけがわからない!と怒鳴った僕に、白蘭さんは酷く冷めた声色で言った。

「どうして3時間も遅れた僕を待ってたの?」

「正確には3時間と15分ですが…そ、そんなの、愛してるからじゃないですか」

ドキ、と一瞬だが心拍数が上がったのが分かった。
本音は愛してるから、ではなく、バカにされたくないから、だったからだ。

「…嘘だ。僕知ってるよ?」

「え…」

「バカにされたくなかったんでしょ?」

「違…」

「自分が大事だったんだ」

「っ」

「自己中正チャン」

「何、」

「大嫌いだよ、そんな正チャン」

「なんで」

「僕を一番に思ってくれない正チャンなんてキライ」

息継ぐ間も無く紡がれる言葉に口を挟む余裕など無く。

白蘭さんのキレイな唇から零れた

『キライ』

そんなただの言葉が胸に突き刺さったのは、勘違いだと思いたい。

思いたいのに、思えない。

「白蘭、さん」

口がカラカラに乾いていた。
うまく言葉が出てこない。
ぱくぱくと無意味に口が動くのが、わかった。

「…なんてね♪嘘だよ」

「…へ?」

見かねたのか、白蘭さんは眉尻を下げつつにこっと笑った。

「利己的なのが君だよ。遅れたのはプレゼント選んでたから。」

ごめんね、と言いながら呆然としたままの僕の手を取り、白蘭さんは小包を手渡す。

「あけて、つけてみて。ほら、君こんなに冷えちゃってる」

「は、はい…」

もう何がなんだか分からないまま、包みを開ければ、ふわふわした真っ白なマフラー。

「…白蘭さんみたいだ」

「ん?」

「ありがとうございます…温かいです」

「良かった♪気に入る手触りのが中々見つからなくてね。ごめん」

「いえ、その…」

「さっきのは全部本当だけど嘘だよ」

「…キライ、っていうのは」

「勿論嘘。僕、正チャンの事大好きだから」

するり、と首に腕が回され、身体が密着する。

僕は白蘭さんの背に手を回しながら、ぼそぼそと呟いた。

「でも、その、白蘭さんが言ったことは当たってます…」

「でしょ?僕ってば正チャンのこと何でも知ってるんだよ」

すごいでしょ、と無邪気に笑う人。

「…すみません、僕は、僕よりもアナタを愛さなくてはいけないのに、その」

見抜かれていた恥ずかしさ、未熟だと知らしめられたような先ほどの白蘭の言葉。
思い出しただけで顔に血が上るような、けれど同時に白蘭さんを失うのではという恐怖心に血の気が引く。
なんと言っていいのか、わからずにいると、抱きついたままの白蘭さんが耳元で言った。

「プライド捨てちゃダメだよ、今の君が一番好き。変わってほしいなんて思わない。君だけはそのままいて。」

その言葉にどんな深い意味があるのかはわからない。
けれど僕はただ頷くだけ。
そして、ただ白蘭さんの傍に居ようとも思った。

「人間なんてみんな自己中なの。だから気にする必要なんてないよ」

さっきの僕はちょっと意地悪が過ぎたかな?なんてヘラヘラ笑いながら抱きしめ合っていた手を解き、そして手袋を付けているにもかかわらず冷え切った僕の手を取る。

「うわ、すっごい冷たい…あとでマフラーよりもずっと、あったかくしてあげるからね?」

その蒼い瞳に一瞬ながら色が宿る。
それを見逃すことも無く間近で見た僕は、わずかに身体の芯を熱くしながら笑みを返した。

「…期待、してますよ」

「うん♪」

たっぷりサービスしてあげるから!という白蘭さんの言葉を聞きながら、自分達も2人きりになれる場所へと向かう。






メリークリスマス!!!!!

何時だって自己中なアナタが大好きです!!!!


END


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2008.12.24
クリスマスFree!!
転載時は報告お願いいただければと思います。

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