パッチリと目が覚める。あたりを見回せば、そこにはいつもとかわらないあたしの部屋があった。外を見れば今日も晴れ。うん。いい天気だ。 起き上がり、体をうんと伸ばす。ポキポキと骨が鳴る音がしたけど無視した。 起き上がって部屋の中を見回すと、きれいに整頓されている机の上に洋服が一式。そして、その机の上には紙が一枚のっていた。その紙を手に取る。 『あたしの記憶は10歳でとまり、1日しかもたない』 そう書かれていた。昨日が10歳の誕生日だったことは覚えている。つまり、これはどういうことだろうか?ただの悪戯?でも、こんなの書いた覚えがない。 洋服を手にとってみれば、あたしの中の記憶よりも大きなTシャツ。サイズを見てみれば、あたしにはダボダボなんじゃないかと思う。机とは反対側の壁に立てかけてある全身鏡に目を走らせる。 そこには、記憶よりも伸びている髪と、背丈に合った洋服をもった女の子がいた。 「これ、あたし?」 洋服をその場に落とし、ゆっくりと鏡に近づく。等身大の大きさになり、あたしを鏡の中から見つめてくる女の子。その子に手を伸ばせば、鏡の中から同じように女の子が手を伸ばしてきた。 触れあうというところで、手先に感じた冷たい感触。かすかに乗っている埃が手について、鏡の上を指がなぞれば埃がとれて線ができた。 部屋の中をもう一度見回すと、壁にかけてあるコルクボードを見つけた。そこにも紙が貼ってあって、何か書いてあるかもと思って近寄って見る。 近寄ってみれば、そこに書いてあったのは、あたしのプロフィールだった。 『13歳』 『女』 『おばさんちでお世話になってる』 『日課はお散歩』 『おばさんがいつも服を用意してくれている』 『すること ・下に行って、朝食を食べる ・おばさんに洋服のお礼をいう ・お散歩に行く ・夕日が沈むころには帰る ・夜ごはんを食べる ・寝る』 『おばさんの息子、たっくん』 そう書いてある紙の横には少年の写真が張ってあった。最近取られた写真なのか、その写真は新しかった。 他にはないかと、コルクボードにとまったままの紙をぺらぺらとめくる。 と、一番古いものが見つかった。 『お母さんとお父さんは死んだ』 震えるような文字で書かれた言葉を一句一句読み取っていくとそう書いてあった。どういうことだろう?どうして、どうして…。 あたしは、着替えることもせずに部屋を飛び出した。すぐそこに階段があって、迷うことなくその階段を駆け降りる。そこはたっくんの家のままだった。 階段を駆け下りてリビングへと入ると、記憶よりも少し老けたおばさんがいた。 「お、ばさ…」 「あら、羽未ちゃんおはよう」 「おはよう、ございます」 焦っていた気持ちなど何もなかったように通常のあいさつをされて、思わず戸惑いながらも挨拶を返す。 「あの、お母さんたち、は…」 「あなたのご両親は交通事故でなくなったのよ。それで、私たちの家で預かっているの」 なんの感情を込められることもなく、言い淀むこともなく、慣れたとでも言うように言ってのけられた言葉。いや、実際に慣れているのかもしれない。昨日のあたしも、その前の日のあたしも同じように聞いたのかもしれなかった。 「さあ、着替えてらっしゃいな。今日も散歩に行くんでしょう?今日は天気がいいわ。顔も洗って、準備ができたら朝ごはんよ」 混乱した頭を無理矢理切り返させるかのように矢継ぎ早にそういわれて、そのまま行動する。部屋に戻り用意されていた洋服に着替えた。 Tシャツにショートパンツというラフな格好。 それに着替えてすぐに下に降りていけばトーストのやける匂いがした。洗面所に行き、顔を洗う。冷たい水を顔にかければもやもやしていた気持ちもさっぱりした気がした。 「おばさん、できた」 「そう、じゃあ食べちゃいなさい」 「…たっくんは?」 「もう学校に行ったわ」 「あたしも学校に行かなくていいの?」 「小学校までしか記憶がないでしょう?年齢は中学生よ。勉強についていけないし、友達だって覚えたところで明日はわすれるわ」 それもそうか、と納得する。なんだか頭があまりうまく働いていないみたいだ。全てが全て、他人事のように聞こえる。 できあがったトーストを素早く食べる。 「これ、今日のお昼御飯代よ。夕日が沈むまでには帰ってきなさい」 「はい」 あたしは、そのお金を受け取って一度部屋に行き、財布の中にお金を突っ込んでから、鞄の中にその財布も突っ込んだ。 ティッシュ、ハンカチ、折り畳み傘がもとから入っていたショルダーバックを肩にかけ、足早におばさんちを出た。 |