短編

□いいたいこと
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教室で一人、携帯をいじりながら座っている女子生徒がいた。窓際に座り、音楽プレイヤーから、イヤホン越しに音楽を聴いている。今日は、先ほどまで友達と愚痴り大会を開いていたところだった。そのおかげで、バスには乗り遅れてしまい、外でバスを待つのは嫌なので適当な時間まで教室にいよう、と思ったのだ。


友達は、それぞれ乗るバスがもう来るとのことなのでいましがた帰ったところ。


一人でいるのは別に苦ではないので、教室に一人で残ってゆっくりするのも悪くないと思っている。


「ああ、ちょっといいか」


教室に入ってきたのは、学年主任の小国先生。男の先生だけれど、背が低く、私と大して変わりはない。友達の中では、その低さがまたかわいらしいという子もいるが、彼はもう40を過ぎているおじさんであって、そんな人にかわいいという言葉を使うには少し、…いや、かなり無理がある気がするが…。


「…なんですか?先生」


イヤホンを耳から外し、先生をみやる。


「クラスでちゃんと仲良くやってるか?仲良くしないとだめだぞ」


出た。皆仲良く。仲良きこと美しきかなってね?


最近、私のクラスでは、いろいろと問題が起こっている。私も一応いるグループ内の一人が嫌われだしたのだ。といっても、それには理由がある。


もともと、その子がいろいろと友達を、小さいことではあるが、裏切るような行動をたくさんしてきたのだ。それに対してもつもりにつもった不満が今現在爆発中といったところ。


その様子は、雰囲気でも、察しているらしく、先生たちは何かと心配そうに何があったのかと尋ねてくる。


私は、いつも愚痴を聞くに徹する。一応中間の立場にいようとはしているのだ。かなり傾く中間ではあるだろうけど。


先生を見れば、少し呆れたようにこちらを見やっていた。


「それは、学校のため?私たちのため?自分のため?」


「?」


意味がわからない、と首をかしげる先生に、言葉を補足して続ける。


「学校の評判が悪くなるから?私たちが進学するには不利になるから?自分のエゴ?…どれにしたってはた迷惑な話ですよ」


そう。はた迷惑。先生が変な風に介入したことによってこじれた仲を私は知っている。


そして、今の状況で、先生が口出しをしてくると、きっと余計に怒るだろう。彼女たちは。


「お前なあ…。いいかげん、そのひねくれた性格直せよ」


「残念ながら、これが私です」


「はあ、で、お前がそういうってことは、あるんだろう?クラスでいじめが」


「いじめというよりも、ケンカに近い」


「…どちらでもいい。あるとしたら、やめなさい。皆で仲良くしていくんだ」


「それは、大人の意見ですね。皆で仲良く。嫌いなところには目をつむって。他人なんだから関係ないと言って」


「誰も、そんなことは言ってないだろう」


「同じにしか聞こえませんが?」


「はあ…。お前なあ」


「先生は、高校時代に嫌いだった人はいませんか?他人をいじめたことなどないと?本当に?」


「……」


「苛められるにしても、いじめるにしても、同じこと。どちらが、被害者でどちらが加害者か。それは他から見たら一目瞭然。でも、本人たちから見ても、一目瞭然なのに対して、他との見解は違う。意味がわかります?」


「………ああ」


「先生方は、弱い者の味方。それはいいでしょう。しょうがないことです。しかし、何も聞かず、自分たちの憶測と、少しだけ見たという現状だけで全てを判断されるのは、不愉快極まりないですね」


「そう、見えるようにしたのはお前たちだろう」


「違いますよ…。とは言えませんね。そうかもしれない、そうじゃないかもしれない。始まりはいつだったか。嫌いになるにも理由があって、嫌われるにも理由がある。そこを知っておかないと、先生の立場が彼女らの中で危うくなるだけですよ」


「……つまり?」


「とどのつまりは、先生が見た目で判断して手を出すんじゃねえよってことです」


ニッコリ、と一つ笑みを残して、私はそこを去った。


end.

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