どうやら、複雑なようだ…。 一年前にも同じように一人のせいで喧嘩のようないじめのようなものが始まり、先生の手によって、外見だけは取りつくろわれた。 ただ、それがいけなかったのかも知れない。今になって、また同じように、友達の言葉を借りるなら、そいつがつけ上がってきたのだ。 そいつの名前はリクロという。 リクロは、浅く付き合うなら楽しい奴。しかし親しくなれば愚痴は言うし、本気なのか冗談なのか暴言も言う。それがどちらかがわからないから余計に性質が悪い。 そんなこんなで、同じ部活3人が怪しい雰囲気になってきた矢先だった。 最初はあんなにも仲良さげに愚痴を聞いたり笑ったりしていたのに、いつのまにかあいつ、やっぱりウザいということになっていた。 リクロを嫌う一人が斉(サイ)だ。斉は同じ部活のマネとして存在していたが、もともとの性分なのか、飽きやすく、そんなに人の世話ができるような奴ではない。そう考えれば、半年も持っていい方だろう。 そんな感じで、飽きたのか何なのか部活に行かなくなった斉。 それを快く思っていない部活の奴ら。 まあ、これは当り前だろう。 そんな奴が身近に一人はいるんじゃないか? そして、今日。その部活でミーティングが開かれるようになったのだが…。 委員会を理由に行くのを拒む斉。呼びに来たのは後輩でとても困っていた。 それに、助け舟とまではいかないながらも、このままではどうにも話が進まない、ということか、カイラが斉を引き連れて離れて行った。 「先輩は、どっちの味方なんですか?」 そう聞いてきた後輩は、遠ざかっていく斉の後ろ姿を心配そうに見つめながら聞いてきた。 そこで、考えてみる。斉とは、別に仲が悪いわけではない。友達としては付き合いが長い。でも、だからと言って自分の相談を持ちかけられるほどの信頼を抱いているわけでもない。 それに比べ、もう一人の同じ部活の奴。ミナイは信用しているし、よく相談に乗ってくれる。やっぱり天秤にかけてどちらを取るかと言えば、ミナイになってしまうだろう。 そう伝えれば、そうですか。と言って、後輩は帰って行った。 それから少しして帰ってきたカイラと斉。カイラは、いつも何を考えているかわからないから、その行動があまり予測できない。 カイラはどちらの見方だろう。 カイラと斉は幼馴染のようなものだと、斉が自慢げに語っていた。カイラも斉のことを何かと気にはかけているようだ。しかし、長年の付き合いのせいもあるのか、流すところはきっちりと流して、深入りはしないようにしているようだが。 しかし、話を蒸し返すなんてことはそこの空気ではできなくて、そのままその話は打ち切られた。 そのあと、斉のいない場所でカイラに後輩と何を離したのかを聞かれた。 「後輩に、どっちの味方か、って聞かれたよ」 「ふーん。で?なんて答えたの?」 結構興味なさそうに聞いてくる、カイラに少しいらっとしながらも後輩のときと同じように、ミナイだと答える。 しかし、やっぱり帰ってきたのは、ふーんという興味な下げな答えだった。しかし、その口元は端に釣り上がっている。 「カイラは、どっちの味方になる?」 これは、純粋に興味があったのかもしれない。そう問いかければ、彼は喉をのけぞらせながら笑った。 そんな彼に、眉間にしわが寄っていたのか、彼は俺の眉間に人差し指を当て、ぐりぐりと押してきた。 「敵、見方、とわけるのは、愚かなことだと俺は思うね」 意味がわからない。 「それは当人同士の問題だ。俺たちは、見守るだけでいい。話を聞いて、愚痴を聞いてあげて、少し自分の見解も話して。それだけでいい」 再び前を向いて歩きはじめるカイラの後を追いながら、今言われたことを考える。愚痴を聞いたり、見守ったり。その見守る相手を選ぶから敵と味方ができるんじゃないだろうか? そんな、敵のような奴の愚痴なんて聞きたくないし、見守る必要もない。 「それだったら、そうしてあげたほうが味方でしょう?」 「敵、見方にわければ、敵は攻撃しなくちゃいけなくなる。…メビウスの輪ってしってるかい?」 「…あれだろう?ずっと同じ方向なのに、いつの間にか裏側になっていつの間にか表になって帰ってくるわっか」 一度ねじってくっつけたわっかは、たどっていくと、いつのまにか裏側になり、いつのまにか表になり、それが続いていくやつだ。 「…あれはおもしろい構造だ」 「いや、だから、なんなんだよ」 「なんだろうね?なんとなく思いついただけだよ」 本当に、この人はなんなんだ…。 カイラはよくわからない。どういう頭の構造をしているのか一度見てみたくなる。 「物事には裏と表が存在していて、人にも表の顔と裏の顔がある。そうなれば、どれが本当のその人かなんてわからないだろう?」 「……裏が隠している本当の自分でしょ」 「じゃあ、表の顔は偽物かい?」 「うーん?」 首をかしげながら混乱してきた頭で考えてみる。しかし、よくわからない。 「質問をしていいかい?」 「どうぞ」 まだ、頭の中で悩みながら、カイラの方を向く。 「敵と味方に分けるその境目はどこだい?」 「もちろん、気に入ってるか気に入らないか、でしょう?」 「じゃあ、世界の人々を、その判断基準で分けて言ったら最終的に自分はどうなると思う?」 「?そんなの敵見方にわかれるだけじゃないのか?」 そういえば、カイラの口元に嘲笑が浮かんだ。 「本当に、それだけか?」 本当に、なんなんだ。こいつは。こいつは、相談するにはちゃんと話を聞いてくれる奴だから、そこんところはいいやつだ。でも、こういう質問されるときになると、本当によくわからなくなる。 「ああ…。それで、敵味方で戦うんだろ?」 「俺は違うと思うな」 「は?」 そう言って、おかしそうに笑う。それは、やっぱり嘲笑の含んだ笑いだった。何をあざ笑っているのか。俺のことか、この質問に対しても自分の答えか…。 それとも、斉たちのことだろうか。 「で?カイラの答えっていうのは?」 「俺は、最終的に一人になるっていうのが答えだ」 「一人?味方はいなくなって敵ばかりってことか?」 「そうさ」 「なんでだよ」 「人間なんて違う考え方の奴ばかり。そんな奴らの集まりでたとえ気が会うとしても、どこかでむかついたりするものだ。そうなれば、そいつを切り捨てるのも時間の問題、ってわけさ」 意味を理解しきれず、首をかしげる。 「つまり、たとえば、そうだな…。今回これに関わっている全員が以前は味方だった、とする」 仮定の話だというように話すカイラ。昔は皆仲が良かったんだから味方だったはずだろう?という言葉は言うべきではないと判断して口には出さなかった。 しかし、カイラは分かっていたのか、ニヤリ、と口元を歪める。 「敵味方の区別なんて、違う甲冑を来ているわけでもないんだからつかないさ。腹の底では嫌いだ嫌いだと、あの頃から思っていたかもしれない」 かっちゅうって…と思いつつも、話しを聞くために口を閉ざしたままにする。 「あくまで仮定だ。もしそうだとすると、今のように意見の食い違い、溜まっていく不満、そう言った者によって、こいつは嫌いだ。つまり敵だとなる」 これは、意味がわかった。なのでうなずいて先を促す。 「ほら、これで、今回の件である、ミナイたち3人組が敵になった」 ニッコリと、清々しいほどの笑みをたたえているカイラにむかって、怪訝な表情を作って見せる。 「つまり、こういうことさ。味方だと思っていても敵になる要因はたくさんあるということ。たとえば、こうやって話している俺とお前だって、いつの間にか不満が溜まり明日にはあいつ嫌いだーって言ってるかもしれないだろう?」 「…………」 「敵と味方を分けるってのは、そういうことさ」 「極端すぎやしないか?」 「極端な方がわかりやすい。だからこそ、その間が見極められる」 首をひねる。うまく解せない感覚だと思う。本当に頭の中を一度のぞいてみたい。そうすれば、きっと、今までの会話の中にあったはずの本音も分かると思うのに。 「それで、カイラはどうするの?」 「言っただろう?どちらの味方になるつもりもなければ、どちらの敵にもなるつもりはない。しいて言えば…、休憩所ってところじゃない?」 そういって、ニコッと笑ったカイラは、もうこっちを見ることもなくすたすたと歩いて行く。その背中を見ながら、今日あった出来事を考え、今後どうすればいいだろうかと、再び頭を悩ませるのだった。 END. |