短編
□BAD BIRD
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「あんたなんか、いなくなればいいのよ」
知ってるよ。ママ。そんなこと、いわれなくても知ってる。だから、あたしは、今ここにこうして…
立ってるんだよ?
見渡すのは高いビル。そしてコンクリートの海に太陽がゆっくりと沈んでいく。風が吹き抜ける。
コンクリートの壁と言う壁を太陽の色、赤に染め、それは緩慢な動きですこしずつ眠りについていく。
いなくなれというなら、いなくなってあげるよ。
迷惑なんてかけないよ?
もう、あたしは、あたしは…
腕にはめてある時計を見れば、ちょうど6時を示していた。
この時間。この時間のちょうど17年前あたしは、
「HAPPY BIRTHDAY。あたし」
17年。思い残すことも、何もない。
そっと、ビルの角へと歩み寄る。下を見れば、米粒ほどの人という人。そして、忙しなく走り抜ける車。
ねえ、キミたちはなぜ生きてるの?ねえあたしはなぜ生まれてきたの?ねえ。
生まれてくるなと言うなら産まなければよかったじゃない。いらないというなら捨てればよかったじゃない。愛さないのなら笑顔なんてみせなければいい。
別れるのなら結婚なんてしなければよかったのに。
ねえ、あたしたちを置いていったパパ?あたしをいらないといったママ?
いったい、あたしをこの世に置いて何がしたかったの?あたしを利用して、ここまで育てていったい何がやりたかったの?
なぜ、あたしを生かしたの?
ママとパパの子供じゃなかったら、あたしはもっと幸せだったかな?幸せになれたかな?
そしたら、こんなところに立たずに、済んだのかな?
ねえ、誰か。
誰か。
あたしはここにいるよ。ここにいる。
誰かきずいて、
誰も知らなくていい
誰か答えて
誰も聞かなくていい
誰か、
お願い
あたしを
お前たちは
助けてっ
いらない
「バイバイ」
あたしは両手を広げ、そのまま体を前に傾けた。そうすればほら。
風の全部があたしには向かうようにして向かってくる。風が髪を後ろに引っ張り上げ、体は重力に従い、悠々と沈んでいく太陽はあたしの顔を赤く染めた。
あたしの体は回る、回る。
回転した体はあおむけになり、コンクリートの向こうに空が見えた。
その空は、泣きたくなるほどきれいで、
思わず手を伸ばしていた。
そこで、あたしの人生は終わりを告げた。