短編夢部屋

□拍手お礼SS
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この儚く、美しい花を、手折り、散らすのは



鋭い鋼のような、自分の手











「今年の桜も、もう終わりね・・・」



「チッ・・・」



「風情がないわね、カルロ・・・こんなに綺麗な桜を見て、舌打ちするなんて貴方くらいなものよ?」



「うるせぇ・・・」



夜の闇に浮かぶ桜は、白に近い色をしていて、少し強い夜風が吹くたびに、その花びらを散らしていく。


春が終わる前に、早々に散っていこうとするこんなにも儚い花に、どうして人は、そして彼女も心を寄せるのだろう?





「桜花、時は過ぎねど、見る人の、恋ふる盛りと、今し散るらむ・・・」




「?・・・」




「万葉集の歌の一つよ。桜の花は、まだ散るときではないのに、愛でてくれる人がいるうちにと、今散ってしまおうとするのでしょうね・・・っていう意味の歌。」




誰にも愛されずに、見てももらえずに散っていくなんて、きっと寂しいものだもの



そういった彼女の横顔こそが寂しそうで、儚げで



夜の桜が、彼女をも一緒に散らしてしまうんではないだろうかと



思わず彼女に手を伸ばし、抱き寄せる




「カルロ?・・・・どうしたの?貴方らしくない顔をしているわ。」




「チッ・・・・お前のせいだ・・・」




彼女の肩に顔を埋めて、きつく、強く、春の夜風に散らされないように抱き締める。



彼女という桜を愛でるのは、この世界にただ一人、自分だけでいい・・・







「お前は、俺が散らしてやる・・・」












散りゆくことが運命ならば



せめて貴方の腕の中で




愛でられながら、散っていきたい





そうしたらきっと、寂しくないでしょう?








end
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