了ヒバの部屋

□君のいる場所
1ページ/1ページ



 ヒバリはありえないものを見るような目つきでソファに座る了平を見た。
「笹川了平、どうして君がここにいるんだい?」
 ここは学校ではない。ヒバリの自宅なのだ。招待したわけでもない人物がいることに疑問をもつのは当然のことだ。
「おう、ヒバリ!邪魔しとるぞ」
「本当に邪魔なんだけど、帰ってくれる?だいたい断りもなく人の家に入ってくるなんて、どういう了見だい?」
「ちゃんと声はかけたぞ。初めてではないので案内は必要ないから勝手に入ってきたがな」
 誰も出て来ないとは無用心な家だなとヒバリを嗜めた。勝手に入ってきた人間が何を言うか。しかし了平に言い返す気はない。いつも自分の意思を貫いてきたヒバリにとって了平は自分のペースで話のできない数少ない人間なのだ。今、そのことに労力を割くのは無駄と判断した。
 ヒバリ宅では笹川了平は不審人物とは扱われない。出入り自由と家人は判断している。決してヒバリの指示ではない。
 同世代の友達など今までヒバリにはいなかった。もちろん今も本人は友達など認めていない。しかし何のためらいもなく自宅に訪ねてきたのは了平が初めてだった。家人は喜んで了平を迎え入れた。
「まったく、ちょっと席を外してる間に…。油断も隙もあったもんじゃないね」
 そういえばどこか遠くで誰かの声が聞こえたような気がする。家人の誰かだと思っていたが、了平の声だったらしい。
 ちなみに席を外していたのはトイレではない。ヒバリは普通の人ではいのでトイレには行かない。消化機能はアイドル並みだ。
「で、結局何しにきたわけ?」
「おぉ!それだ。忘れておった!」
 携帯を取り出して何やら操作をしている。ヒバリは了平の携帯を覗き込むと眉を顰めた。
「それ、確か獄寺隼人にアイテム目的で無理やり登録されてたゲームじゃなかった?」
 そのゲームに友達を招待するとアイテムが一つもらえるという理由で獄寺に登録させられたのは事実だ。ゲームには全く興味がなかったがやらなくてもいいというのでそのままにしておいたのだが。
「タコヘッドの奴、なんだかんだと俺のコロニーの面倒まで見るのでな、自分でもやってみたらこれが極限!面白いのだ」
 無理やりやらされたわりにははまっているようだ。
「それでゲームをしにわざわざ来たとでも?」
「うむ。隕石を避けるために移動しなくてはならんのでな、ロードワークを兼ねてここまで来たというわけだ」
 それだけのために来たのか。呆れると共に苛立ちを覚える。
 僕はゲームのついで?
 了平の中でのヒバリの存在はそんなものなのか。そんな程度にしか思っていないのならいっそ噛み殺してやりたい。無意識にトンファーに手が伸びる。
「もちろん、それを口実にヒバリに会いに来たのだ」
 事もなげに笑う了平に相変わらず戦意を喪失される。そっと気づかれないようにトンファーを納める。
「いつも、理由なく来るじゃないか」
「理由なく来ると怒るではないか。だから理由を作ってきたのだぞ。俺としては理由などなくともヒバリに会いたいのだ。それをお前は文句ばかり言うから俺なりに考えた結果だ!」
 胸を張って言うことか。浅はかな考えだとは思うが、実に単純で明確だ。了平らしいといえば了平らしい。そんなところが好ましい。
 ヒバリに会うためにゲームをやっているのなら、多少ゲームに夢中になっていても目を瞑ることにしよう。あくまでも多少だ。ヒバリを蔑ろにすることは許さない。
「そうだ、ヒバリもやるか?俺に会いに来れるぞ」
 理由がなければ会うことができないヒバリにはうってつけだと思ったが、ヒバリは急に冷めた目で了平を睨みつけた。
「僕が?君に会いに行くの?」
 了平が来るのだからヒバリは行く必要がない。それもゲームに振り回されてなんてごめんだ。いつでも了平がヒバリのところに来ればいいだけのことだ。
「わがままな奴だなぁ。まぁトレーニングになるから構わないし、待っているのは性にあわんから、俺が会いにこよう。よし!そうしよう。極限そう決めたぞ!」
 一人で勝手に決めているがその意見について反論する気はない。ヒバリも同意するが、了平には伝えない。
「では、帰る前にトイレを貸してくれ」
 もう帰るのかと少し寂しい気はするが、これから会う機会が増えそうなのでそれを楽しみにすることとしよう。
 了平が来るなら何を準備しておこうか。
「おーい、ヒバリ!トイレの場所がわからんぞ!」
 とりあえず、トイレの表示をつけようか。



END

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ