了ヒバの部屋

□ロマンスの神様
1ページ/1ページ

 

 庭に人の気配がする。とうに日は暮れて日付さえ跨ごうとしている時間だ。こんな時間の来訪者など歓迎するべきではないだろう。
「何してんの、君」
 臨戦態勢で構えたが、そこにいたのは見知った顔だった。
「よぉ、ヒバリ」
 片手を上げてにこやかに挨拶する了平がそこにはいた。
「そんなところから不法侵入してきたら、噛み殺されても文句は言えないよ」
「仕方ないだろう。こっちの方が近いのだから」
 理由はそれだけではない。ヒバリの家は広いのだ。了平はいつも迷ってしまう。特に建物の中に入ってしまうと方向感覚を見失う。外から直接ヒバリの部屋を目指した方が辿り着ける可能性が高い。
 それに庭で気配がすればヒバリは顔を出してくれるので呼び出す手間が省けるのだ。
「それで、こんな時間に何の用?」
「用なんて決まっているではないか。ヒバリ、初詣に行こう!」
「ヤだね」
 間髪いれずに断られた。おとなしく頷くとは思っていなかったが、それにしても即答とは。間もなく年も明けようという時に幸先の悪い。
「初詣なんて、君の最愛の妹と行けばいいだろ?僕なんかお呼びじゃないはずだ」
「京子は沢田達と先に行っている」
「へぇ、大事な妹を他人に任すなんてどういう風の吹き回しだい?」
 了平なら妹最優先で他人に任すなんてことはないはずだ。妹離れでもしたのだろうか。いやそれは絶対にない。
「もちろん沢田達を信頼しているからだ。それにこれは京子の望みなんだ」
「兄離れのが先だったってことかい?」
「京子がな、ヒバリは他人と一緒だと嫌がるだろうから別々に行動しようと言い出したのだ」
「何言ってるの?君だって他人だよ」
 そんなヒバリの答えなど予想の範囲内だ。了平は胸を張って答えた。
「わかっている。それでも俺はヒバリと初詣に行きたいのだ」
「寒いから嫌だ」
「大丈夫だ。手を繋いでいけば寒くない!」
「僕が、人混みに行ったらどうなると思う?」
 初詣といえば大勢の人が集まっている。群れている人達を噛み殺したくなるのはヒバリの習性だ。トンファーを振り回して暴れるだろう。
 了平と一緒に行くのは嫌だとは言っていない。寒いのが嫌だ。人混みが嫌だ。それだけだ。
 了平が次の誘いの言葉を探しているうちにヒバリの方から了平に手を差し伸べた。
「だから、少し温まっていきなよ。夜中になれば人も空くだろうし、それからなら行ってもいい。並盛神社の風紀も気になるところだし」
 素直に頷くとは思っていなかったが、それでもいい。
 了平は差し伸べられたヒバリの手を取って、部屋の中へ入る。




 他人でもいい。他人と他人が一緒にいれば二人になる。

そうやって新しい年を迎えることに少しだけ幸せを感じるのだった。



END

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ