了ヒバの部屋

□glass
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 アルコバレーノ代理戦争の中、リボーンチームは真っ先に了平が戦線離脱した。それも雲雀の手によってだ。
 不意打ちだったとはいえ、あっさりウォッチを破壊されたことを了平は納得できないでいた。確かに雲雀は強い。けれど了平だってそれなりの強さを持っている。今までも実力差があっても究極の根性で跳ね除けてきた。
 何せ無類の負けず嫌い。どうしてもリベンジを望むが、雲雀は一向に相手にしない。
 元々代理戦争のチームが分かれたのもボンゴレに本気で噛み殺したい相手がいるからだというのに、了平とは戦わないと言ってさっさとウォッチを壊したのだ。
 屈辱だった。対等の相手として見てくれていないのかと自信を失いかけた。例えそれが両想いの相手だとしても。いや、好きな相手だからこそ対等でいたいと思うのだ。
だが、そこで挫ける了平ではない。何度も雲雀に再戦を挑む。が、そのたびにかわされてしまうのだ。
「雲雀!逃げるとは卑怯だぞ!尋常に勝負しろ!」
「ヤだね」
 雲雀は始終この通りで全く相手にしない。
「ちょっと、待った」
 とうとうやる気になってくれたのかと期待の目を向けたが、雲雀は心なしか怒っているようだった。
「コレ、何?」
 雲雀は了平の頬についていた小さな傷を指して言った。ほんの小さな傷だ。よく目に止まったものだ。
「コレか?ちょっとトレーニングで…」
「ケンカ、じゃないだろうね?」
「他校の生徒と空き地でスパーリングをしただけで、決してケンカではないぞ」
 傍からみれば十分ケンカだし、相手もそう思っているだろうが了平は本気でスパーリングだと思っている。
 雲雀は大きく溜め息を吐いた。
「それでこんな傷をつくってきたっていうのかい?」
「かすり傷だ。大したことではない!」
 相手はこんなものではないのだ。了平とて自分の拳が凶器であることは承知している。手加減はしたが、無傷で済ますことはできなかった。そして了平自身もほんの少し傷を作ってしまった。
 それが雲雀は気に食わない。
「相手はどこのどいつ?」
「いや、済んだことだし」
「並盛の平和を乱す者は許さない」
 並盛の平和=雲雀の平和ということだ。了平がケガをすれば雲雀は平静ではいられない。
「前に勝手に傷を作るなって言ったの覚えてないの?」
「もちろん覚えているぞ。だから極限気をつけてコレなのだ。少しくらいいいではないか」
「だから君とは戦えないっていうんだ。いくら回復が早いからって我が身を省みないからね」
 本当はガラスケースにでも入れて誰にも触れさせたくない。誰の目にも触れさせたくない。雲雀は了平を独占したいのだ。それはできない相談だということもわかっている。了平はおとなしくケースに収まっているタマじゃない。自分でケースを破ってまたケガをするタイプだ。
「では雲雀は本当に俺と戦う意志はないのだな」
「そうだよ」
 了平は自分のものだ。傷一つ許せない。それが自分でつけた傷だとしてもだ。
 雲雀の気持ちは了平もよく理解した。複雑な感情はわからないが、雲雀は了平のことを大切に思っており、傷つけたくないから戦わない。単純明快だ。
 了平も雲雀と戦いたいと思っても傷をつけたいわけじゃない。好きな相手でも好敵手としてありたいがどうすればいいのか。傷をつけずに戦うということなのだろうか。
 了平は考えた。う〜んと唸りながら雲雀が怪訝そうに見ているのもお構いなしに唸り続けた。
 そしてポンと手を叩く。
「雲雀!ジャンケンポン!」
 前触れもない掛け声につられて雲雀はグーを出した。了平はチョキだ。
「くそー!負けた〜」
 なるほどジャンケンか。これなら外傷はなくとも勝負にはなる。が、了平はそれで満足なのだろうか。
「これからはいつ、いかなる時でも勝負を仕掛けるからな。覚悟しておけよ、雲雀」
 まるで子どもじみた勝負ごっこに付き合うことになるのか、呆れながら雲雀も相当な負けず嫌いだ。ジャンケンであっても負けられない。
「返り討ちにしてくれるよ」
「よーし!勝負を受けたな。全力で戦うぞ!」
 了平も満足らしい。全力で戦えればそれでいい。本気の気持ちをぶつけ合うことが大事なのだ。

 それから並盛中の校内では至るところで了平と雲雀がジャンケンをする姿が目撃された。
 呆れるやら恐ろしがられるやら奇異の目を向けられるやら周囲の反応はさまざまだが、本人達は至って本気で、そして楽しそうに勝負を繰り広げていた。



END

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