小説〜オリジナル〜

□生きる意味を探す旅人
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昔かもしれないし、今かもしれない。ある小さな村に、一人の旅人が行き着いた。





「お婆ちゃん、いってきます。沢山、木の実を取ってくるからね!」
一人の少年が小さな家を出発し、森へと向かった。少年は祖母と二人暮らし。年を取り、あまり動けなくなった祖母の代わりに、幼い彼は二人分の食べる物を用意していた。この季節、森には木の実が山ほどある。沢山持って帰ってお婆ちゃんを喜ばせてあげよう、そう少年は思いながら、笑顔で森の中へと歩いていった。
少年は森の中を歩き、色々な木の実、果物などを採った。そろそろいいかな、そう思った彼の目においしそうなりんごが映った。少し高い位置に生っている。届くかな?一生懸命に少年は手を伸ばすが、もう少しの所で届かない。
「うーん!」
その時だった。
「これを採りたいのかい?」
そう言って一人の男が少年の採ろうとしていたりんごをもぎ、少年に渡した。
「あ、ありがとう!」
「いや、いいんだよ」
その男は見ると旅人の様で、少年は目を輝かせた。少年の住む村は森の深くにある為、旅人が来る事などほとんどないのだ。
「旅をしているの?」
「あぁ」
「近くに僕の村があるんだ。寄っていってよ。旅の話が聴きたいんだ」
「それでは行こうかな。私なんかの話でいいのなら」
今にも腕を引っ張って村へと連れて行こうとする少年に、旅人は微笑み、言った。




「おっと、旅人さんかい?珍しいねぇ!ゆっくりしていってくれよ」
村に着くと気の良さそうなおじさんに声を掛けられた。
「はい」
「婆ちゃんは元気かい?旅人さん、困った事があったら何でも言っておくれよ」
おばさんにも声を掛けられた。
「あったかい村なんだね」
「うん。僕はこの村が大好きなんだ」
少年は嬉しそうに笑っていた。
少年の家の前にある岩に二人は腰掛け、話し始めた。
「お兄ちゃんはどんな旅をしてきたの?」
「私は生きる意味を探す旅人なんだ」
「生きる意味…?」
少年は不思議そうに尋ねた。
「そう。物が存在するには、それぞれ何か存在するだけの理由がある。例えば君の着ている服は、ないと君は寒さを凌げない。そうだろう?」
「うん」
少年は頷いた。
「だから作られた。それなら、人間が生きるのにも何か理由があるんじゃないか、私はそう思うんだ」
「じゃあ、お兄ちゃんはその生きる意味を見つける旅をしているの?」
「そうなんだ」
「生きる意味を探して、今までどんな所を見てきたの?」
「それは色んな所を見てきたさ。色んな人がいて、色んな意味を持って生きていた」
「どんな凄い意味を持って生きていたの?」
目を瞑って語りだした旅人に少年は興味津々に尋ねた。
「羊の為だったり、たった一人の女の子の為だったり」
「なぁんだ。もっと凄い物かと思ってた」
「生きる意味をそこに見出し、生きている事自体がとても素晴らしい事なんだよ」
つまらなさそうにする少年に旅人は言った。
「ふぅん。そういう物?」
「あぁ、そうさ。…時に君は、何のために生きていると思うかい?」
「うーん、よくわからない」
「ふふふ」
旅人は考え込む少年を見て微笑んだ。
「お兄ちゃんは、旅をしてまだ意味は見つかっていないの?」
「あぁ、残念ながら。もしかしたら生きる意味を旅の途中で見落としてきたんじゃないかと最近は思うよ」
そう言って、旅人は笑った。
「…どこだい?坊や…」
その時、家の中から声がした。
「お婆ちゃんだ。僕はここだよぉ!旅人さん、空も暗くなってきたし、今日はうちに泊まっていってよ。旅人さんが手伝ってくれたから木の実も沢山あるし」
少年はニコッと笑った。
「あぁ、お言葉に甘えるよ」
「やったぁ!」





翌朝早く、旅人は少年の家を発った。一枚の置手紙を残して。
君の生きる意味、見せてもらったよ。でも意味は一つとは限らない。これから探して生きていくんだよ
「今はそうやってお婆さんとこの村で暮らすこと自体が君の生きる意味になってる。今はそれでいいんだ。でもいずれ君は違うことに意味を見出して生きていく筈だ。それまで意味を探す旅をやめちゃいけないよ?」
そう呟いて旅人はまた旅に出た。自分の生きる意味を探しに、みんなの生きる意味を見に。




人は皆、生きながらその意味を探す旅をしているのかもしれない。誰しも、旅人なのだ。

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