小説〜オリジナル〜

□帰り道の気持ち
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私はいつも部活で帰りが遅くなる。そんな私を隣の家の祐兄(にい)は時々迎えに来てくれる。その日もバスから降りたら傘を持って雨の中、笑顔で立っていた。
「お帰り、まどか」
傘を差し出して祐兄が言う。
「ただいま」
二人で並んで歩き出した。
「今日はシュートが上手く決まってね…」
いつも通り話してた。
「あれ?あいつ神田じゃね?」
「あっ、まじだ!神田!」
二人の男子高校生が私達に近付いてきた。
「げっ!清水と加藤!あんた達なんでここにいるのよ。」
クラスメートである彼らに私は言った。
「げっ!ってなんだよ!今日は部活が早く終わったんだよ。こっちだってお前に会ってがっかりだ!ん?っておい。その人誰だ?」
加藤が祐兄を見て言い出した。
「え?うちの隣の…」
「彼氏か!?お前に彼氏!?嘘だぁ!」
「なっ!!」
「お迎えとはラブラブだねぇ!」
「ちっ、違っ!」
「おっと、邪魔したな!へへへ」
「ヒューヒュー!」
そう私の耳元で言い、清水と加藤は去っていった。
あいつらは一体なんなんだぁ!!





「なっ、何言ってんだろうねぇ…!祐兄と私が付き合ってる訳ないのにねぇ…!あはは」
「うん…」
私は祐兄の顔がまともに見れず、その後私の家に着くまで私達は一言も話さなかった。











次の日、帰りのバスから降りると、そこにはお母さんが立っていた。
「おかえり」
「ただいま。…祐兄は?」
私はお母さんに訊いた。
「祐司君、忙しいからしばらくは迎えに来れないんだって。あぁ、これから明るくなるし、まどか、一人で帰ってきたら?」
「そう…」




祐兄は次の日もそのまた次の日も迎えには来ず、遂に2週間が経とうとしていた。
「よう、神田。彼氏とはどうだ?」
「なっ、何もないわよ!」
私は加藤達からぷいと目を逸らして、自分の席に着いた。





何があったんだろう。帰り道が寂しいよ…。そう思いながら学校の帰り、道沿いのコンビニの前に来た時、コンビニから祐兄が出てきた。
「祐兄!」
「ま、どか…!」
少し驚いた顔をしてから祐兄は目を逸らした。行き先は二人共、家。目を合わせずに並んで歩き出した。
「…なんか忙しいんだって?しばらく迎えに来れないって」
「あ…ごめん」
「いや、いいの!祐兄、大学生だもん。課題とか、レポートとか忙しいよね」
「いや…あ、うん」
「だから、無理して迎えに来なくてもいいんだよ!私、独りでも帰れるからっ!」
私は無理して笑った。
何言ってるんだろう、私。嘘ばっかり。独りじゃ寂しいって思ったばかりじゃない。
私は祐兄よりちょっと先に歩いていた。
「違う!」
いきなり祐兄が出した大きな声に驚いて、私は振り返った。
「え?」
祐兄自身も驚いていたみたいだった。
「あっ、えっと…」
祐兄は唾を飲み込んだ。
「…嘘なんだ」
「何が?」
「まどかを迎えに行かなかった理由。あれは嘘だったんだ。忙しくなんてなかったんだ。」
「どういう事…?」
「行きたくなかった。だから、まどかから逃げたんだ」
私、嫌われたの…?なんで?何がいけなかったの?
「好きなんだよ!」
え?今なんて…。
「でもまどか、俺と付き合ってるはずないって言ったから。そっかって。迎えに行って二人で歩くだけで満足してたのに、それだけじゃ足りなくなった」
ちょっと待って。
「…まどかが俺の事、なんとも思ってないことはわかってる。言いたかっただけなんだ。こんな事言っちゃったから、もう迎えには来れないね」
そう言って祐兄は悲しそうに笑って歩き出した。
待っ!
「ちょっと待って!」
「え?」
振り返った祐兄に私は続けた。
「祐兄はずるいっ!いつもは私の話に只笑って頷いているだけなのに、いきなりそんな!沢山喋って…。独りで勝手にやって、勝手に決めて!」
「 … 」
「誰がもう来て欲しくないなんて言ったのよ!誰が私が祐兄の事を…!」
えっ?私何言ってるの?
「何とも思ってない訳ないじゃない!」
「え!」
「え!いや…え〜と。ねぇ?」
どうしよう、顔が赤いっ。何で私赤くなってんのよぉ!あっ…そっか。
「祐兄…、私、も祐兄の事…好きかも知れない…!」
下を向いて私は言った。
「え…?あっ、ぇえ!!」
「だから、これからも迎えに来て!祐兄のいない帰り道は寂しくて悲しくて嫌なの!」
言った。言ってしまった。
「うん…。いいの?本当に、俺なんかで」
「いいの!」
「もしかして、両思いって事…?」
祐兄がそういった瞬間、二人してぼうっと赤くなった。
「う…、そうなるの!?」
やだっ、ドキドキする!二人してしばらく目を逸らし続けた後、祐兄の動きが止まった。そして唾を飲み込み、言い出した。
「とにかく、今日は帰ろう!」
「え…う、うん」
背を向けて歩き出した祐兄の手が私を呼んだ、気がした。私は小走りに近付き、祐兄の手を掴んだ。祐兄の手は一瞬びっくりしてから、しっかりと私の手を握った。祐兄の手はほんのり暖かくて少し汗をかいていた。私の手は冷えていた。ドキドキが止まらなくて、手から伝わるんじゃないかとさえ思った。





「着いたよ、まどか」
「へ?」
祐兄の言葉は本当だった。顔を上げてみると家の前だった。
「じゃ、あね…」
「じゃあ…」
「ガチャ!バタン!」
「ただいま!」
「おかえりー」
「バタバタッガチャッバン!」
祐兄と別れた後、私は家に入るなり、階段を駆け上がって部屋に閉じこもった。そしてばたっとベッドに倒れこんだ。
さっきまで祐兄と繋いでいた手を見ながら、思っていた。なんて短い道だったんだろう。それと同時になんて長い道だったんだろう、と。いつも歩いている筈の道なのに、途中どこまで歩いたかもわからなかった。祐兄に着いたって言われるまでそこが自分の家だという事にも気が付かなかった。なんか、私おかしいや。



私の初恋が祐兄で良かったと思う。祐兄が私を好きになってくれて良かった。祐兄の彼女、私がなれるかも。
まだきっとしばらくは今まで通り、バス停から家までの距離を一緒に歩くだけ。そこからの進展なんて結構遠いと思う。でもいいんだ。私は祐兄と一緒にいれるだけで幸せで満足だから。祐兄もそうかな?ゆっくりゆっくり進んでいきたいな、二人一緒にね!

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