小説〜オリジナル〜

□ゴーストタウン
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ここはどこだろう…。森の中?空が暗い。もう夜なのかな?
 


僕はたった一人で歩き出した。暫く歩き、森を抜けた所に街があった。そこは僕が住んでいた『きょじゅうく』より空気が悪くて、きっと『にさんかたんそ』っていうのがたくさんあるんじゃないか、そんな事を僕は思った。なんか不気味だ、この街。高いビルがたくさん建ち並んでいるのに人気が全く無い。そのビルも壊れているものばかりだ。それでも誰かいないかと、僕は街の中を歩き回り始めた。
「いないよ〜。誰かぁ。」
僕は恐がりながら言う。そんな時、すっと一瞬、ロングヘアーの女の子の後姿が見えた。
「あ!ちょっと待って〜!」
僕がそう言うと女の子は顔半分振り向いて、少し驚いたような顔をしてから、笑って去っていった。と言っても被っている大きな帽子のせいで口元しか見えなかったけど。僕は女の子を見失ってしまった。その時、
「誰だ…。こんな所で何をしている。」
比較的背の低いビルの屋上に黒い服に身を包んだ女の子が足を投げ出して座っていた。厚い雲の間から何故か見える、大きな月の光に照らされて、彼女の黒髪が光って美しい。
「僕は…」
女の子がビルから飛び降り、僕の目の前で着地した。人ってこんなに高い所から飛び降りられるんだと僕は感心してしまった。
「ん?なんだ、彷徨える者か。」
「さまよ…?」
「お前ここで何をしている…。」
「僕、気付いたらここの近くの森にいて…。」
「…そうか。死の森から…」
「え?」
「いや、何でもない。」
「ここはどこなんですか?」
「ここは死者の街だ。デッド・ヒルや廃魂の街などと呼ぶ奴もいると聞いたが…。」
「なんで、僕がそんな所に。」
「……どこに行けばいいのかも分からないのだろう?付いて来い…。」
そう言うと、女の子は歩き出してしまった。
「え、はい。あ、待って。」



「ありがとう。本当にどこ行けばいいかわかんなかったから。」
「そういう仕事をしている。」
どんな仕事なんだろう。僕は子供だし、迷子センターみたいな?
僕達は無言で歩く。女の子が歩くのは速くて、僕は付いて行くのに必死だ。僕は話しかけた。
「さっき、ビルから降りてくる前に僕の目の前を歩いていた…人ですか?」
足場はビルから崩れ落ちたコンクリートやら何やらで、ガタガタだ。
「何の事だ。私はこの時間はいつも、ビルの上で街の様子を窺(うかが)っている。」
「そうですか。」
やっぱり、見失ってすぐにビルの上に居たんだもんね。さっきのお姉ちゃんとは違う人だよ。あのお姉ちゃんなんか笑ってたのに、このお姉ちゃん、全然笑わないもん。えぇと、『むひょうじょう』って言うんだっけ?
僕がそんなことを考えていた時、
「下がっていろ…。」
「え?」
次の瞬間、女の子は大きな鎌を持っていた。どこから?なんて事は今、僕にはどうでもいい。
ビルの中から、1人のおじさんが出てきた。こっちに歩いてくる。他にも人が居たんだと僕が思った時、
「うあぁぁ…」
おじさんが襲い掛かって来た。僕が見たおじさんの顔はドロドロしていた。
ひっ…!
僕は思わず目を瞑(つむ)った。お姉ちゃんが鎌を振り、僕が目を開けたときには、おじさんは居なくなっていた。
「すごい!ありがとう!」
「まだだ。」
さっきのおじさんみたいな人がビルからたくさん出てきて、そして次々と襲ってくる。お姉ちゃんがその人達に向かって鎌を振る度、人数がどんどん減っていく。



「ふぅ…。」
「つ、強いんだね!でもあの人達は…。」
「奴らは人ではない…。既に死に、この街に来て彷徨い、お前の様な奴や私などを襲うだけになった。もう人間としての心も持ち合わせていないんだ。」
「でも…。」
「お前は私があいつらを殺したなどと考えているのか?」
僕は戸惑ってから、小さく頷く。
「私がした事は救いだ。ここは本来、来てはいけない場所だ。心が満たされずに死んだ者、心残りがある者、償わなければならない罪のある者。そんな者達だけがここに来るんだ。稀に、お前のような者も来てしまうようだが。ここで未練が晴れたり、罪を償ったりして正しい場所へと旅立つ。だが、あのようになってしまってはどうにも出来ない。この鎌は特別な物だ。切り裂いたあいつらの魂を正しい場所へと運ぶ…。もういいだろう?」
そう言うと女の子は歩き出した。なんだか一瞬辛そうな顔をしたような…。
「あの、ごめんなさい。あんな事言って。」
「謝らなくてもいい…。」


「相変わらず、全然笑わないのね。」
目の前にいたのは、さっきの女の子だった。笑っている。帽子の下から見えた顔は、隣にいる女の子だった。本当にそっくりだった。金髪に白い服に笑顔で他の所は全然違うけど。
「ねぇ、亜栖(あす)花(か)ぁ?」
「明日奈…。」
「笑わないし、ロングヘアーに黒いロングスカート。ゴスロリっぽくして、亜栖花は西洋人形でも目指してるのかな?ふふふっ」
明日奈と呼ばれた女の子は、僕の隣にいる女の子の顔を覗きこむようにしながら、悪戯っぽく笑う。
「あの…、どういう事になってるんですか?」
「妹だ。一応私と同じ仕事をしている…。」
亜栖花お姉ちゃんはこっちを向かずに僕の質問に答える。
「一応ってなによぉ!…ん?あっれぇ?さっきの子?」
「あ、はい。」
「よく見ると、可愛いのね、あんた。僕、一人ぃ?うふふ」
明日奈お姉ちゃんは僕の頭を撫でながら言う。この人は人の倍以上、よく笑う。まるで亜栖花お姉ちゃんの分まで笑っているみたいだ。
「はい。」
「あ、今、亜栖花と全然似てないとか思ったでしょ?よく言われる〜。」
「笑って人をからかうのも大概にしろ、明日奈。」
「は〜い。ごめんなさ〜い。んで、こんな子連れてどこ行くの?」
「決まっているだろう。センターだ…。」
「ふ〜ん、そ。」
明日奈お姉ちゃんは、空を見て固まっている。それから、
「……」
「な、何ですか?」
僕の顔を覗きこんでくる。
「じぃぃぃ〜〜〜…、決〜めた!あたしも付いてくわ!いいでしょ?亜栖花。」
いきなりパッと表情を変えて言った。
「…あぁ、構わない。」
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