多生之縁
□心情変動
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俺とレイン、おっさんとでハルトマンに別れの挨拶を告げてから、ハルトマンの家を出た。
他のやつらとは宿の前で合流することになっていて、俺たちが急いで向かうとまだ宿の前に誰もいない。
どうしたのだろう、と思いながら待っているとぞろぞろと中から出てくる。
「おせーぞ」
「それがさぁ、聞いてよ。朝早くにイリアが肉ーっ!て叫ぶような寝言言って僕ら起きたんだけど、本人は全く起きないんだ。ついさっきスプレッドやって起こしたところ」
イリアに目をやると頭から足までびちょびちょのびしょ濡れだった。
そのせいなのか不機嫌そうな顔のまま黙り込んでいる。
「でひゃひゃひゃひゃひゃ!バッカじゃねぇの!?」
「指を差すなぁぁ!そして笑うなぁぁ!バカだって言うなぁぁぁ!!」
ぷんすかと怒り出した自業自得のイリアにモアはぽんぽんと頭を撫でる。
イリアの頭はびしょ濡れのため、ぽんぽんというよりびしゃびしゃだったが。
「まぁまぁ、そう怒んなさんな。肉はいつかちゃんと食べさせてあげるから」
と言って笑顔を見せたモアにイリアは顔を真っ赤にさせながら右手を引いた。
そしてそのまま、モアの左頬に右ストレートをかます。
モアは「ぼぎゃ」と間抜けな声を出して惨めで無惨に床に落ちる。
どこからかゴングが鳴り響き、イリアが勝者であることを称えた。
「さ、さぁ、王都レグヌムに向かいましょうか」
「さ、さんせーい。うわぁいレグヌムだー」
アンジュとルカが空気を変えようと必死だ。
未だ怒り狂っているイリアは次のターゲットをルカに定める。
襲い掛かろうとルカの元へ駆け出したイリアと固まるルカ。
だが、イリアとルカの間に現れた人物がいた。
レインだ。
レインが背負い袋から出したであろうふわふわで真っ白な洗い立てのようなタオルでイリアを受け止める。
イリアは戦意を喪失し、レインに頭や体を大人しく拭かれていた。
あんなに怒り狂っていたイリアが今や花を散らすほどに和んでいるのだ。
恐るべし、レイン。
「いよっし、王都に向かうわよ!」
いつものイリアに戻ったのか意気込み始めたイリアに俺たちも意気込みながら「おー」と声を出す。
いつの間にか俺の隣でニコニコと笑いながら拳を挙げたモアに俺は声を出して驚いた。
(こいつ、あっちで倒れてたはずなのに…!?)
ナーオスを出てレグヌムへ行こうと歩き出した一行に何事もなかったかのように付いていくモア。
一体あいつは何者なんだろう。
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