多生之縁
□記憶錯覚
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「この辺りだな、ナーオス基地は」
レインの地図を頼りに歩いていると、何だか基地のようなものが見えた。
あれがナーオス基地だろうと思った矢先、基地の入り口の前に誰かがいる。
その誰かが俺たちに気付いたのか壁に腰かけて腕を組んでいたのをやめてこちらに手を振ってきた。
「やぁ、待ってたんだ」
「お前は…!」
レイン以外は武器を構えて今すぐ戦闘を開始できるように準備できている。
モアは両手を上げてからレインに目をやった。
レインはその視線に気付いたのかため息をついてからモアを庇うように前に出る。
「レイン、あんた…!」
「みんな、話を聞いてくれないか?」
「そいつアルカだろ!?俺たちを連れていこうってのか!?」
すると、モアは不愉快そうに顔を歪ませてから上げていた両手を下ろして俺たちを睨み付けてくる。
俺たちは獣に睨みつかれたように縮こまってしまう。
「レインが話聞けって言ってんのが聞こえねぇのかよテメェら!!」
俺なんか比にならないくらいに恐ろしいモアにレイン以外は震え上がった。
レインは呆れたように頭を片手で押さえてため息をついている。
「モアはこれから私たちと旅をすることになった。独断ですまない」
「よろしくねぇ」
パッと表情を普段のふざけた笑顔に変えて片手をひらひらと振ってみせるモア。
(気に食わねぇ…)
仕方なさそうにみんな武器を仕舞ってから話をちゃんと聞くことにする。
「モアは私たちの仲間になるが、アルカでもある。だが、私たちと共にいる限り私たちを裏切らないと約束してくれた」
「どうしてものときは君たちが傷つかない程度に裏切るよ」
昨日、レインが言っていたのはこういうことだったのかもしれない。
私の独断で誰かが傷付いてしまったら、私を怒るか?
俺は小さく誰にも見えないようにキャスケットで隠して笑った。
(まったく、レインらしいな)
モアはクスクスと笑いながら俺たちを見る。
「僕、役に立つよ?前衛後衛援護何でもござれなんだからね。君たちの役に立つよう頑張るよ」
やっぱり気にくわないが、確かに役に立ちそうだ。
盾とか、盾とか盾とか。
「仕方ないわね、これからよろしく」
「よ、よろしくお願いします」
「…よろしく頼むわ」
「うん、よろしくね」
各々挨拶をしてから屈託のない笑顔をしたモア。
そんな笑顔を見せたモアだが、何だか危険な気がしてならない。
戦場で見せたあの金色の目が気になる。
色々わかるまで一緒にいても大丈夫、なはずだ。
「さ、中に入ろうか。僕らそうこうしてる間にもう排除されてるとかあり得なくもないしね」
モアを先頭にナーオス基地の中へと入った。
中はどことなく何かに似ていた。
思い出そうとしているとルカが呟くように言う。
「転生者研究所に似ているよね?」
「ってこたぁ、転生者がとらわれてるって可能性はデカいな」
「そして転生者をまた兵士に仕立て上げるってことよね?まったく、ロクでもない…」
「まったくだ」
次々と意見を出していくなかモアだけが黙り込んでどうでもいいような顔をしている。
すると、ルカがキリッと眉を上げたのを見てルカの方に視線を戻す。
「そんなの許せないな。さぁ、聖女アンジュを探そう」
「聖女アンジュ、かぁ…」
呟いたモアをみんなが見つめる。
それに気付いたらしいモアは無言無表情で歩き出した。
この先は行かせまいと現れるひょろい男と図体のでかい男を次々と射殺していく。
返り血を浴びない程度の距離を開けて次々と。
モアは振り返ってきょとんと首を傾げてみせる。
「どうしたのさ君たち。早く先に進もうよ。きっと聖女様は奥にいるだろうからね」
そう言って笑ったモアはとてつもなく恐ろしかった。
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