多生之縁
□全てが始まる
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いつだか忘れてしまう位に前。
俺はこの窮屈で退屈な生活に飽き、屋敷を飛び出た。
夢中に走った。
足が重かった。
捕まってしまったら、また苦しむ。
それよりだったら、逃げてしまった方がマシだ。
俺の人生は、俺だけのものだから。
道の角を曲がったその時、俺は何かとぶつかりその衝撃でしりもちを付いてしまう。
何だよと思いながら前を見てみると、誰かが立っていた。
『大丈夫ですか?』
逆光のせいか俺に手を差し伸べている人の顔が見えない。
『あぁ、サンキュ』
俺に差し伸べてきた手を掴み、立ち上がり砂ぼこりを払う。
改めて俺に手を差し伸べてきた物好きの顔を見てみる。
紫色の長めの髪。
藍色の澄んだ瞳。
雪のように白い肌。
『……どうしましたか?』
じっと見つめている俺に顔をずいと寄せてきた彼女に思わず体を離れさせる。
それを見た彼女は笑い出し、俺は口を尖らせながら何だよと言っても彼女の笑い声は止まない。
『あはは、ごめんね。君の名前何て言うの?』
笑いすぎて涙が出てきたのか目尻を人差し指で拭っていた。
俺、そんな面白いことしたかよ。
『スパーダ……、スパーダ・ベルフォルマ』
ハッと言ってしまってから気付く。
ヤバい、このままじゃ何でベルフォルマ家の人が外に出てるの?とか言われる挙げ句、脱走したというのがバレてしまう。
彼女の口が開かれる。
『そっか、じゃあ君は"ベル"だね』
『は?』
予想もしなかった言葉に思わず間抜けな声が漏れてしまった。
『よろしくね、ベル』
『いやいやいや、何でだよ。俺がここに居るのって変だとか思わないワケ?』
彼女はきょとんと首を傾げた後、コクコクと頷いた。
そうだ、コイツはまだまだ子供(俺もだけどそれは置いといて)。
ベルフォルマ家のこと知らないのも納得がいく。
安心したのか気が抜けたのか、深いため息をつく。
でも、嬉しかった。
俺を否定しなかった。
俺を無理矢理屋敷に戻さなかった。
『君の名前は?』
彼女の澄んだ藍色の瞳を見つめながら問うと、彼女はにっこりと目を少し細めて笑った。
『私?私はねぇ…──────』
彼女がその言葉の続きを言う前に、
周りが真っ黒に塗りつぶされたように暗くなっていった。
彼女も黒に塗りつぶされていく。
『待って…待ってよ!!』
To be continued...