sail in the same bort
□move
1ページ/10ページ
前方から無数の人の気配。
僕は立ち上がってゴシゴシと乱暴に目の辺りを拭いてからまだまだ燃え盛っている元本に目をやった。
とりあえずアイシクルで火を消してから、何故かはわからないが疲労がどっと来て僕はまたナーオス基地の壁に背中を預ける。
きっとレインたちだろうな、と思いながら空を仰ぐ。
(よし、カッコ付けよう。とりあえずカッコよく腕を組もうか)
自分なりにカッコいいポーズをとってみせ、ちゃんと遠くにある人影が誰であるかを確認するために目を凝らす。
やっぱりモア様ご一行だ。
今の自分のポーズを見直してみて、なんとなく僕らしくないなと思ってみんなに向かって手を振る。
するとみんなは僕に気付いてくれたようだ。
「やぁ、待ってたんだ」
「お前は…!!」
スパーダがそう言ったのを合図にレイン以外は武器を取り出したのだ。
乱暴だなと思いつつ大して驚いてはいないがそういう表情を見せて両手をあげる。
(やっぱり話してなかったんだ。予想はできていたけどね)
レインに救済を求めようと視線をやると、レインは精神ダメージを与えるようなため息をついてから僕の前に立った。
それを見た仲間であるみんなは目を見開く。
「レイン、あんた…!!」
「みんな、話を聞いてくれないか?」
「そいつアルカだろ!?俺たちを連れていこうってのか!?」
僕を敵を見るような目で見てくるスパーダに僕は不愉快に思い、顔を歪ませる。
(…て、仕方ないんだけどさ。でもこれから仲間になるのに)
僕はあげていた両手を下ろしてから、ガンッとレインの前にいるナカマタチを睨み付けた。
僕のただの視線に怯えて縮こまったガキ共に僕は思いきり息を吸い込む。
「レインが話聞けって言ってんのが聞こえねぇのかよテメェら!!!!」
本当はあまり怒ってなんかいないけれど激怒しているように大声で怒鳴るフリをしてやった。
それだけでみんなは震え上がってしまう。
優越感に浸っていると、レインが呆れたように呆れたように頭を片手で押さえてため息をついている。
あーあ、とでも言いたいような仕草に僕は頬を膨らませていると、レインがナカマタチに顔を向き直した。
「モアはこれから私たちと旅をすることになった。独断ですまない」
レインの言葉の後に「よろしくねぇ」と怒ったフリをパッとやめて片手をヒラヒラと振る。
すると、ナカマタチは気にくわなそうに武器を仕舞う。
それを見て僕は唇を尖らせた。
レインは僕をチラリと横目で見てからすぐに視線を戻す。
「モアは私たちの仲間になるが、アルカでもある。だが、私たちと共にいる限り私たちを裏切らないと約束してくれた」
「どうしてものときは君たちが傷つかない程度に裏切るよ」
ニコニコと笑顔で言うが、やはりさっきまで敵と言う肩書きを背負っていたせいか信用はしてくれなそうだ。
(ま、いつ裏切ることになるかわからないけどね)
一人でクスクスと笑いながら両手を広げる。
「僕、役に立つよ?前衛後衛援護何でもござれなんだからね。君たちの役に立つよう頑張るよ」
実は僕さ、単純な人の心くらいなら読めるんだ。
今のスパーダはきっと僕を敵と言うより味方と言うより盾と見てるね。
スパーダらしいというかなんというか。
また一人笑っていると、イリアが腰に手を当てながらため息をつく。
「仕方ないわね、これからよろしく」
次にルカが控えめに笑う。
「よ、よろしくお願いします」
スパーダが僕を睨み付けながら仕方なさそうに言う。
「…よろしく頼むわ」
それに僕は頷いてもう一度「よろしくね」と言った。
微笑ましい三人の姿に笑顔を見せてやる。
これでようやくレインたちの仲間になれた。
レインも気になるけれど、その仲間たちも気になるんだよね。
君たちは僕にどんな顔を見せてくれるのかな。
大笑いしたい衝動を必死に体の中に押さえてから僕はみんなに背を向ける。
「さ、中に入ろうか。僕らそうこうしてる間にもう排除されてるとかあり得なくもないしね」
今、君らが探しているのは転生者だ。
ここに来たのもきっと転生者がここにいるからだろう。
(ここの奥に行かせるわけにはいかないな…。僕が先頭を歩かなきゃ)
僕がこのナーオス基地に入ってから、僕を追いかけてくる気配がする。
ちゃんとついてきているようだ。
僕は先頭を歩く。
しばらく歩いていると、ルカがぼんやりと呟く。
「転生者研究所に似ているよね?」
僕は確かに、と思いながら立ち止まる。
転生者がどうとかロクでもないとか、ぶっちゃけどうでもよかった。
どうせ転生者はみんなアルカ入信を求めるからだ。
そんなたくさんの転生者のうちの一人なんてどうでもいい。
僕の横をすり抜けていくみんなをただ見つめる。
(興味があるのは君たちだけなんだよね)
小さく笑みを浮かべると、ルカが眉を上げて意気込んだらしい。
普段よりは興奮気味に言う。
「そんなの許せないな。さぁ、聖女アンジュを探そう」
聖女アンジュ。
聞き覚えのある単語に僕は思わず「聖女アンジュ、かぁ…」と呟いてしまった。
呟くつもりなんてなかったのに、内心しまったと思ってしまう。
聖女アンジュ。
彼女はその名の通り聖女らしく、様々な傷を癒していると聞いた。
僕も本当の昔にケガを治してもらった。
──助けにいかなきゃ。
その聖女アンジュがここに捕らわれているのなら、兵士に仕立て上げられようとされているのなら。
気が付けば僕にみんなの視線が集まっていた。
僕は無言無表情で僕の横をすり抜けていったみんなの横をすり抜けていく。
僕の前に立ちふさがる男二人。
体型なんて見ていられるか。
「邪魔だよ。…死ね」
懐から銃を指で二回ほど回してから発砲する。
発砲、発射、射殺。
倒れて水溜まりを広げていくモノを見下ろして鼻で笑う。
「邪魔するからだよ、アホが」
倒れているものを後ろにいるみんなに聞こえないように罵る。
そして、後ろを振り返ってぽかんとしているみんなに首をかしげた。
「どうしたのさ君たち。早く先に進もうよ。きっと聖女様は奥にいるだろうからね」
そう言ってからまた歩き出す。
立ち塞がる野郎共を次々と射殺していく。
後ろにいるみんなの手を汚さすまいと。
.