sail in the same bort

□move
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三人の足音がすぐ後ろに聞こえる。
ちゃんとついてきているようだが、空気が重い。
まったくガキなんだから、と思いながら足を止めて振り返ると、三人も俯きながら足を止めた。

(この三人の子守りをしてきたレインも大変だったんだね)

困ったような表情をしながらため息をつく。


「君たちいつまでガキでいるつもり?」


答えもないまま空気もそのまま。
僕はやれやれ、と思いつつ心の中でレインに謝りながらゆっくりと優しくレインを下ろす。
それから、三人一人ずつの頭に僕のチョップをお見舞いした。
チョップをかますと一人一人「痛っ」とかなんとか言いながら頭を押さえ、ようやく顔を少しだけ上げる。
僕は腰に手を当てながら、説教モード。


「レインは大丈夫だから、罪悪感とか持つな。ちょっとスパーダには悪戯しちゃって、ごめん。はい、終わり。今から気にしたやつ罰ゲーム、いいね。レインが倒れたからこんな空気になっちゃったって思ったらレインが罪悪感抱えちゃうだろ?とりあえず、スパーダは二人に謝って」


そう言うと、スパーダは渋々「ごめん」と口だけで謝る。
まったくもう手間のかかる、小さくため息をついてからスパーダの脳天に拳骨。


「心が隠ってない、もう一度」


こいつ調子乗りやがって、とでも言いたいような顔でこちらを見てからもう一度二人に向き直るスパーダ。


「二人とも、本当にごめん」


きちんと腰を折り曲げて謝ったスパーダを見てから思わず笑みが浮かんでしまう。
すると、突然ルカとイリアはふっと吹き出した。
驚いた顔で腰を曲げたまま顔を上げるスパーダに二人は爆笑。


「なんか、二人兄弟みたい」


と、ルカが言う。
そうかな、と体を起こしたスパーダに目をやる。
必死に反論しているスパーダを見ながら親指と人差し指を顎に添えながら「兄弟かぁ」とぼんやりと呟く。


「スパーダ、今日から僕のことを兄さんと呼ぶんだ」


「嫌だっつーの!!」


僕はクスクスと笑いながら「冗談だよ」と言うと、スパーダは唸り始める。
スパーダが本当に僕の兄弟だとして、それはそれでいいかもしれない。
すると急に、僕の中が冷めた。
兄弟なんて、と自分で自分を笑う。
僕には何も要らないのにね。

みんなに背を向けてから、レインを抱き上げて再び歩き出す。
とりあえず、三人が仲直りできてよかった。
本当にそう思っているのか、自分ではよくわからないけれど。





それから少し歩くと、さっきまでとは別な構造の部屋に出た。
イリアが横に並べられた機械を見上げたのを見て、僕も見上げる。

(これはギガンテスか)

あの頃、あいつが合間合間に作っていたものだ。
こんなにたくさん作ってしまうほど、あいつは暇になっていたのだろうか。
僕は無意識に歯を食いしばっていた。
あいつが憎くてたまらない、殺したいほどに。


「う、動き出さないうちにとっとと聖女かっさらって逃げましょ?」


気が付けば三人で話が進んでおり、僕だけが蚊帳の外にいたようだ。
よくはわからないがルカとスパーダが笑っているのを見て、僕も合わせるように笑う。
ふと、感じた違和感と嫌な感じ。
僕はギガンテスから三人へと視線をずらし、真剣な表情を見せる。


「急いだ方がいいよ。なんか、嫌な予感する…」


「ま、まさかこの兵器が全部襲ってきたりとか…!?」


「かもね…」


ひっそりと声を殺して言うと、三人は思った通り震え上がった。
僕は堪えきれず吹き出す。
三人はきょとんとただ笑う僕を見ている。


「冗談だよ。さ、行こうか」


そう言ってから歩こうとするが、立ち止まる。
スパーダが心配そうに僕に抱き抱えられているレインを覗き込んでいたからだ。
僕はニッコリと笑ってみせてから「大丈夫だよ」と言うと、スパーダは小さく頷く。
また歩き出すと、後ろから三人の内緒話が聞こえてきた。


「モアって何考えてんのかさっぱりわかんない」


「そうだな。俺も同感だ」


「ぼ、僕も…」


酷いや、と思いながら踵を返して三人の内緒話にこっそりと参加する。


「なぁに言ってんのさ、早く行くよってば」


気配を消して忍び寄っていた僕に全く気づいていなかったようだ。
三人は愉快で楽しい。
肩を思いきり跳ねさせて奇声を発して驚いた三人に僕は爆笑。

(心から爆笑したのはいつぶりかな)

チトセの前でも本当は少し無理して笑っていたのかもしれない。
今はこんな久しぶりの感情に身を浸らせながら今度こそ奥に向かう。




ずっと笑ったまま歩いていく。
不意に、背後から気配。

(人…、転生者と…何かの気配?)

ちゃんと気配を感じ取るために笑うのを止める。
すると、イリアが「ねぇ」と呼び掛けてきた。


「何か聞こえない?」


耳を澄ますと確かに背後からドシンドシンと重いものが近づく音がする。
みんな一斉に振り返ると、ギガンテスがすぐ後ろにいた。

(笑っていて気付けなかった…!!)

また後悔か。
そんなの、今さらだ。


「どぅあ!?さっきのヤツ!!」


「だ、誰も乗ってないのに!?」


みんないきなりのギガンテス登場に狼狽えているようだ。
僕はレインを優しく、かつ素早く置いてから小さく呪文を唱えた。
握られる剣、僕の剣、クレイモア。


「ボーッとするな!!」


クレイモアを握った僕の体は軽く感じられた。
そのままギガンテスに突っ込むも、あっさり弾かれる。

(正面からじゃやっぱり無理があるか…)

少ない歩数でギガンテスの後ろに回るが、攻撃される前にこっちを向いてしまった。


「見て、前に見たシリンダーが!!あの転生者が入ったアレ!!」


僕には見えないんですけど。
ぶすっとしていると、三人は僕と同じ場所に回ってきた。


「ワー、ブー、オンセイ、シキベツ、ヲ、ハジメマス…」


「お、喋ったぜ?やっぱ人が入ってんのか?」


「それともあのシリンダーの中の人かなぁ?ねぇ、ちょっと!!聞いてんの?」


「ワー、ブー、オンセイ、シキベツ、エラー、シンニュウシャ、ヲ、ハイジョ、シマス」


排除します、だって。
僕らはただぽかんと黙り込む。


「へ?排除って…」


「ゲッ、マジかよっ!!」


「ああん、もう!!おたんこルカ、あんたのせいよ!!」

「なんで僕がっ!!」

「ここは真っ先に攻撃したモアの責任だろ!!」

「酷いよ!!僕は君たちを守ろうとしただけなのにさぁ!!」


言い合っている場合じゃないのに。
ぎゃあぎゃあ言い争っているのをお構いなしに襲いかかろうとしてくるギガンテスに舌打ちしたい気持ちになる。
ルカに向かおうとしている攻撃を、僕は剣で受け止めてから弾く。


「みんな、注意しろ!!」


みんなの気が張りつめる。
戦闘が、始まった。




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