sail in the same bort

□move
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──チトセは今何をしているだろうか。

銃弾を放ちながら、現実味の無いこの世界から目を逸らしながら、僕はぼんやりと思った。
まだ出てきて少ししかたっていないからきっと寝ているだろうけど。
じゃあ、今どんな夢を見ているのだろうか、だ。
前世の記憶かな、過去の記憶かな、ただの夢かな。
その夢のなかに、僕はいるかな。


「は…、ははっ。ははは…」


どうしてだろう、笑えてくるよ。

いるはずないのに。

君が見ているのはいつも僕じゃなく別の人。
当たり前だ、君は僕を好きじゃないから。
ストラスがサクヤ様を好きだったから、僕もチトセが好き。

(そんなんじゃなくて)

例え君と前世で何の関わりもなかったとしても、僕は君を好きになった。
広い、ただ広いだけの世界で、たった一人の君をさがし出して、君を好きになる。

(僕は君が好きだ)

今、こうして敵であるみんなと仲間を気取っているのも。
今、こうして君と離れているのも。

(全部、君のためだから)

大好きな君を守るため、大好きな君を汚さないために。

(僕は今、ここにいるんだ)

笑みが、消えない。





奥へと進んでいくと、僕は足を止めた。
開けた部屋で僕はただ立ち尽くす。
僕の後ろを追いかけていたみんなも僕に追い付いて立ち止まる。


「何だこれ!?」


スパーダが驚愕に声を上げた。
それもそのはず、目の前には緑の液体で満たされた人入りのシリンダーが無数にあったからだ。
普通に生きていればこんなもの目に入れずに死んでいけたはずなのに、僕らは既に異常な道を歩いているらしい。


「人…、きっと転生者だ!!何のために、こんなことを?」


「ヒドい…、転生者だからって何してもいいってワケ?フザケンナっての!!!!」


そう、僕らは転生者だから。
こんな世界に生まれ落ちた時点で、僕らはもう異常なんだ。
シリンダーの中に入っている転生者に僕は目もくれずに前を進もうと右足を浮かせた。

──ちょっと待て。

この場所を見ているのはルカやイリア、スパーダの他にもう一人いるはずだろう。
レイン。
僕は右足を地面につけて振り返る。
その頃には、もう遅かった。


「いや…、だ。いやだ、止めてくれ…!!私を…私を…っ!!うあぁぁぁああああああっ!!!!」


レインはこのシリンダーを見て、崩れ、落ちた。

(そうだ、レインは僕らと違うんだ)

今さら後悔しても遅い。
目を見開いて怯えたような目でレインを見ているみんななんて知るか。
レインが異常であると思ってしまっているみんななんて見ない。

(ふざけるな。お前らだって、十分に異常だろうが…!!)

ゆらりとレインに近付こうとしているスパーダを突き飛ばす。
自分を棚にあげてレインのみを異常と見ているお前らに、レインは支えきれない。
僕は頭を押さえながら振り回しているレインを強く、強く抱き締めた。

(異常なのは君だけじゃない。僕も同じだ)

レインは僕にしがみつくように、声を上げて泣いた。
僕はただ、レインをずっと抱き締めるだけ。


「夢だよ。きっと今君が見たのは、夢だ」


「夢じゃない、現実だ!!本当に痛かった、怖かった、死ぬかと思った…!!」


僕は抱き締める力を強める。
泣き叫ぶレインの耳元で、僕は何度も謝罪の言葉を並べた。
ごめんね、僕のせいだよね、ごめんね、ごめんね、ごめんね。





ずっと謝り続けていると、レインは眠ってしまったようだ。
涙の跡を親指で拭ってから、レインを抱き上げて振り返る。
スパーダが座り込んで耳を塞いでいた。

(正直、絶望したよ)

君ならレインを支えきれると僕は少しでも思っていたのに。
君はあっさりと僕の期待を裏切るんだね。
僕はスパーダの横まで歩を進め、見下ろす。
するとスパーダは絶望の淵の手前に立っているような、同情でもしてほしいような顔で僕を見上げる。


「君に、レインは守れない」


「……!!」



僕は絶望の淵に、スパーダを沈めた。
何の反論の言葉も見つからないでいるスパーダを過ぎて、奥へと進む。
足音がない、ついてきていないのだろう。


「じゃあモアは何なんだ?異常なのか?違うだろ!?あれが普通なんだろ!?俺は、俺たちはレインに怯えてただけなんだよ!!!!」


スパーダの八つ当たりに似た言葉に見えないであろうが眉を潜める。
僕に抱き上げられながらも眠っている、あの頃に似たレイン。


「ね、レイン」


返事はない。
当たり前だ、眠っているのだから。
それでも構わず、僕は言葉を続ける。


「僕は転生者みんなが異常なんだって、そう思ってた。けれど、違うみたい」


思い込んでいたかった。
けれど、それはただの現実逃避なんだって、そう思うよ。


「やっぱり僕と君はみんなとは違う異常みたい。…皮肉だね」


どうしてこうなってしまったのだろう、とは思わない。
僕にはこれが、お似合いだ。
君がどう思っているのか、僕にはわからないけれど。




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