sail in the same bort

□involuntary
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部屋の窓から外に落ちた、いや、羽ばたいた。
漆黒の羽根に身を委ね、遥か上空へと舞い上がる。
振り返りたい衝動に駆られる、だが堪えて翼をはためかせた。

(これが永遠のさよならじゃないんだ。だから、その日まで)

僕は後ろを見ない。
前だけを見るって決めたんだ。
真っ青な空の小さな汚れとなって、向かう場所へと向かう。





真っ暗な、本当は少し広い部屋が本や薬品や机と、ある物で狭くなってしまっていた。
光を放つある物が部屋の唯一の光となっている。
ある物の前に置かれている椅子に座っているウェーブのかかった床に付くほどのブロンドの髪を持った人。
否、神。
僕に気付いたのか少女か少年かわからないような小さな子供は、僕を見て微かに微笑んだ。


「今日も来てくれたんだ。嬉しいよ」


「毎日通わないと、体が持たないよ。アサ」


僕がそう言うと、アサは「それもそうだ」と短く声に出して笑った。
椅子から立ち上がり、二つあるうちの一つのある物に体を付けるアサ。


「だってさ。キミも大変だね」


ある物の中に入っている人らしきものに話しかけているのかアサは独り言のように呟き、クスクスと笑う。
コポコポという泡が作られる音が間断なく耳を、脳を響かせる。


「間違っても殺さないでよね。困るのは僕なんだから」


「わかってるよぉ。キミはボクの味方だもんね。それに、キミはボクを守ってくれるから、殺すわけないじゃないかぁ。アハッ、キャハハハハハハハハ!!」


腹を抱えて笑い出すアサの顔は歪んでいる。
僕は困ったような表情を浮かべながら微笑み、アサに歩み寄った。
絡み合う僕の瞳と、ビー玉のような澄んだ水色の瞳。
食らい付くようにアサの唇に自分の唇を重ね合わせた。
アサは抵抗もせずにただ僕に身を委ねている。
布一枚を巻いて体を隠しているアサの、その布を剥いで首元に印を付けた。


「キミは本当に偉い子だね。あの"失敗作"とは大違いだ」


僕は印を付けたところに噛みつき、血を吸った。
アサは痛かったのか小さく声を漏らして、僕の頭を撫でる。


「キミがボクの血を飲んだ時の顔、好きだよ」


視界に黒みが混じってきてぼんやりする。
アサの体から離れて口の回りの血を舌で舐め取ってから、ニタリと笑う。
前が開けられたアサは布を体に巻いてから、もう一度椅子に座る。


「嬉しくないよ」


それだけを告げて暗い部屋から出た。




外へ出ると、月明かりが僕を照らしてくれているためか、あまり暗くもない。

(さて、あいつらはどこに行ったものか…)

ポケットから地図を取り出し、目と頭を動かして考える。

(最後にあいつらと会ったのは西の戦場、ここか。ここに近い街と言ったら…聖都ナーオスか)

地図を折り畳んでから、体を伸ばして息を吐く。


「じゃ、行くか」


拳銃を二回回してからグッと握る。
前を遮る邪魔な魔物を一発撃って倒し、ガルドとアイテムを手に入れながら進んでいく。


「この辺りって雑魚ばかりだからなぁ…。ツマンネ」


そうこうしているうちにナーオスに着き、見てみると見覚えのある後ろ姿が見えた。
拳銃を仕舞ってその後ろ姿に歩み寄る。
気配に気付いたのか真っ先に戦闘体勢に入り、剣の鞘と柄を握った。


「や、また会ったね」


「私は会いたくなかったがな」


睨み付けるレインの瞳に、僕も睨み付けるように見つめるとレインが消える。
次に気配を感じたときには、レインは僕の後ろに回って剣の刃の部分を僕の首に向けていた。


「今すぐ私の前から消えろ」


「それは出来ないよ失敗作くん」


"失敗作"の言葉に反応して隙を見せたレインの剣を左手で掴んだ。
レインが掴まれたことに気付き、引っ張るが抜けない。
それもそうだ、力強く握っているのだから。
白い手袋が段々と深紅へと染まっていく。


「話、聞いてくれるかな?」


剣を握ったまま引き、レインの耳元に唇を寄せて囁くとレインは剣を握っていない方の手で殴ろうとしていた。
だが、その手を右手で掴んで遮る。


「……っ!!」


黙り込んでしまったレインに笑い掛けて話し始める。





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