sail in the same bort

□dream
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「今まで何してたんだ!!早く手当てしろ!!」


入った瞬間出たのは救護班班長の怒声。
何度も首を下げて謝ってから急いで手当てを再開する。

(今度は気を付けないと…)

嫌いな消毒液で傷口を消毒すると、堪えているのか唸り声が聞こえた。
その唸り声は男性というより青年といった声の高さで、包帯を巻いた後に顔を見てみる。


「終わったよ」


「あぁ、ありがとう」


やはりその顔は十代の後半のような顔立ちをしていて、僕とあまり歳も変わらなそうだ。
黄土色の肩に付くか付かないかくらいの髪を持っていて、少しだけ焼けている青年。
青年は僕がいつまでも視線を外さないことに不思議に思ったのか「あの」と呼び掛けた。


「あ、ごめんごめん。君の名前はなんて言うの?」


「俺はレオですけど、何か?」


怪訝そうな顔をしているレオに「何でもないよ」と言ってから帽子を渡した。
青年はまたありがとうと言ってからテントから出ていく。

(あの歳で戦場に行くってことは徴兵なのかな…。家族とか心配してるだろうな…)

家族。
頭を振ってから思い出しかけた記憶を振り払う。

(過去はもういらないんだ)

テントに来た怪我人を手当てしているとチトセが帰ってきた。
班長に軽く謝罪してからチトセも手当てをし始める。


「ルカとどんな話したんだ?」


「関係ないでしょ」


僕に背を向けているチトセの言葉に僕は「酷いなぁ」と苦笑してから僕も手当てを始めると、誰かが僕の手を取った。
いきなりのことで驚いてしまい、言葉にするなら「ふぎぇ」というような声を出してしまった。
僕の手を取ったのはどうやらチトセのようで、チトセの顔が目の前にあって心臓が高鳴る。


「チ、トセ?こんな人前で大胆だなぁ」


「どうしたのこの手!?怪我だらけじゃない!!」


頬を染めていると、僕の言葉を軽くスルーして僕の手を心配してくれているチトセ。
その手は僕があの時草で切れていてもそのままにしていた切り傷。


「あー、平気だよ。ほら、もう血も止まってるし、すぐに治るよ」


「でも…」と言葉を続けようとしたチトセの言葉を遮るようにチトセの頭を撫でる。


「大丈夫だよ、僕より重症な人いるからさ。そっちを優先しようよ」


しばらく黙った後、頷いてくれたチトセに「よし」と言ってから手当てを始める。

(本当は、)

本当はチトセに手当てをしてほしかった。

(でも、そうしてしまったら)

もう歯止めがきかないくらい、好きになってしまいそうで。
彼女に迷惑をかけたくなくて。

(まぁ、今でも十分に迷惑かけてるけど。これ以上、迷惑かけたくないんだ)

小さくふと笑ってから手当てを進める。
少しだけ上達した包帯の巻き方。
少しだけ、だけど。






急に立ち上がったチトセに僕は不思議に思ってチトセを見上げる。


「どうした、チトセ?」


「感じる、の…。行かなくちゃ…」


そう呟いてテントから出ていったチトセを追いかけて腕を掴む。


「どこに行く気だよチトセ!?」


「ルカくんのところ。止めないで、モア」


ルカのところ、つまりはきっと戦場だ。
その戦場に行くなんて危険すぎる。
危険だ、止めろ。

(そう言いたいけれど)

チトセの真っ直ぐな瞳。
決めたことは曲げないことを知っているから。
わざと大きなため息をついてからチトセに微笑む。


「仕方ないね、僕も行くよ。王子を姫様を守らなきゃ、てね」


歯を見せて笑うと、チトセは困ったような嬉しそうな笑顔を見せてくれた。
チトセの腕を掴んでいた手でチトセの手を握る。


「笑ったってことは肯定の意味で捉えていいんだよね?」


握った手を口許に持っていき、手の甲に軽くキスを落とす。


「勝手にしなさい、私は行くわ」


僕の手を握り返したチトセに僕は目を見開いてふっと笑った。


「はいはい、姫様」


僕がチトセの隣に並んでから、僕たちは戦場に向かって歩き出した。





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