sail in the same bort
□dream
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手当てをし終えるのを待たないように担架がテントの中に入ってくる。
結局、一人が一人の手当てをすることになったものの。
(うわ、包帯が上手く巻けない…。何だこれ、ミイラかこれ)
本当にミイラのようで噴き出し、腹を抱えて笑う。
もう現実逃避してしまったようだ。
後ろから頭に包帯を投げられ、それからまた作業を開始した。
それにしても、切り傷、銃傷、火傷。
どれも酷い怪我で戦場での様子を物語っている。
消毒しようとする度に痛みで叫ぶ軍人。
(頭がガンガンしてきたよ…)
どの怪我でも、おびただしい量の血を流している。
その傷から溢れ出している血液を舐めとると、鉄の味が口に広がった。
血の味。
ド クン
心臓が一回、大きく鳴った。
気が遠くなるような胸の痛み。
目に入るのは、あの時に重なるのは血、血、血、血。
僕に向けられる憎悪の言葉、視線。
聞きたくなくて、目を逸らしたくて、両手で耳を塞いで目を閉じた。
髪をぬるりと滑った両手。
恐る恐る両手を見てみる。
僕の右手は、真っ赤に、染まっていて。
「───────っっ!!!!」
声にならない叫びを残してテントから飛び出した。
後ろから名前を呼ばれた気がしたけれど、止められない。
(こんな僕を、誰にも見せられない…!!)
木陰に突っ込み、木を背に座り込む。
汚れた手を必死に拭おうと服に擦るが、不快感はまだ拭えない。
草に拭うと、腕やら手が切れたのか痛いが、気にしてられない。
『ごめん…』
目の前に現れた銀色の長い髪を持った半透明のストラス。
「な…で、お前が謝るんだよ…?ストラスは悪くないだろ…」
いつの間にか溢れていた涙にようやく気付き、腕で拭う。
拭ってから見たストラスはとても悲しそうで、泣きそうで。
『僕の記憶が、モアにまで。苦しい想いをするのは僕だけで良いのに、ごめん』
そう言って涙を溢したストラスに僕は立ち上がってストラスを抱き締めた。
「ストラスは仕方なかったんだよ。僕は自分で手を汚したんだ。君は仕方ないよ、だから──」
言葉を続けようとしたその時、何やら話し声が聞こえた。
ストラスにごめんと告げると、ストラスは微笑んで頷き消える。
(ストラスと話したおかげか、もう平気だ。よし)
木陰から飛び出し、話し声が聞こえた場所に行ってみると、チトセと他四人がいた。
チトセはそのうちの銀髪の少年と仲良さそうに話している。
(チトセが仲良さそうに…。何かあるのか?)
少し胸が痛んだが、僕も会話に参加することにした。
「チトセ、その人は?」
一斉に集まる視線に僕はあまり怯まない。
(アルカに僕に従う変なやつらもいるから、慣れてるっていうか)
すると、チトセが僕に顔を向けてから銀髪の少年に顔を向けた。
「この人はルカ君、他は知らないわ」
「何よそれ!!ケンカ売ってんの!?買ってあげるわよ、何ガルド!?」
赤髪の少女が拳を作って殴りかかろうとしたところをキャスケットを被った緑色の髪の少年が押さえている。
じたばたと暴れる少女を少年が必死に逃がさないとしている姿を見て、笑えて声が漏れた。
(あ、笑えた。もう大丈夫みたいだ)
一回笑えると止まらないもので、とうとう腹を抱えて空を仰ぎ見る程だ。
無理矢理笑うのを抑えて話しかけるが、未だ笑みは消えない。
「あはは、君たち面白いね。僕はモア=クロスウェイ、これからよろしく頼むよ」
少女が少年を振り払いこちらに歩み寄ってくる。
「あたしはイリア・アニーミ。よろしくね」
「俺はスパーダ・ベルフォルマ!!よろしくな」
二人共自己紹介してくれて、ニコリと笑って「よろしく」と言ってから手を差し出した。
二人は笑顔で握手をしてくれて、何だか嬉しい。
ふと、感じた何かの気配。
その気配があった先を見て、口許に笑みを残したまま睨み付けるように見つめる。
(こんなところにいたのか。ようやく見つけたよレイン)
懐かしいその紫色の長い髪。
澄んだ藍色の瞳。
雪を連想させる白い肌。
いつから僕をそんな鋭い目で見つめるほどに強くなったんだろう。
「えぇっと、アルカに入信しちゃったんだよね?」
「そうなの。教義の一環として、ここで奉仕活動をすることになったのよ」
ルカが話題を少し変えてチトセに話すと、チトセは楽しそうに嬉しそうにルカと話す。
すると、スパーダやイリアの後ろに後ろにいたレインが少し前に出て僕を睨み付けているかのように見つめる。
「じゃあ、お前もアルカ信者なのか?」
「ご名答。チトセよりは先輩だよ。奉仕活動をしに来ました」
わざとへらへらとふざけたように話すと、レインは僅かに眉を上げて剣の鞘に手をかけた。
レインが柄にも手をかけたのと、ルカとチトセが会話に華を咲かせているところを見て、僕はテントに戻ろうと背を向けた。
(ここで斬られたくないし、さっき割り込んじゃったチトセへのお詫びに、僕は少し退散するよ)
視線だけをレインに向けると、レインが制止をかけようとしたのだろうがスパーダによって遮られてしまっている。
それを見てから僕はテントに再び潜り込んだ。
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