sail in the same bort

□sky
2ページ/4ページ

自分の両肩を抱いて背中を丸めると、背中から何かが出てくる。
黒い何か。
それは真っ黒な翼。
チトセは驚いているのか固まって動かない。

(毎度毎度、コレ出すの疲れるんだよね。少し痛いし)

僕は頬を流れる汗を右腕のコートで拭う。
それでも固まっているチトセを可愛らしく思って、チトセに歩み寄った。
そして、片膝を地面に付いてチトセを見上げる。


「チトセ、僕が怖い?」


チトセはすぐさま首を横に振る。
それに安心した僕は、チトセの右手を取り、右手の甲にキスをした。
頬を少し赤くしたチトセの手を取ったまま立ち上がり、チトセを真っ直ぐに見つめる。


「さあ、行こうか」


「……うん」


チトセが僕の手を握り返し、それを確認してから翼をはためかせる。
地を上に蹴ると、ふわりと浮かぶ。
更に更に上へと上がっていく。
すると、チトセが目を瞑っていることに気付いた。


「チトセ、下を見てごらんよ。見ないと後悔するよ?」


僕の言葉に反応したのか、チトセはゆっくり目を開けていく。
目を開けきって辺りを見回したチトセは小さく声を漏らした。


「すごい…、街があんなに小さいなんて。それに、空が近く感じる…」


「どうですか?お姫様」


問いかけるとチトセは満面の笑みを見せた。


「最高…!!」


その言葉を聞くなり僕はチトセを引き寄せ、抱き締める。
チトセの右手は掴んだまま、僕はチトセの腰に手を当てた。


「お姫様、御相手願えますか?」


チトセは笑って頷いた。
それを見て僕はチトセと一緒にくるくる回り出す。
まるで、ダンスを踊っているように。


「こんな最高な日、今まで無かったわ!!ありがとう、モア」


「どういたしまして!!」


お互いに笑い合いながら、躍りながら目的地へ向かう。

(いつまでもこうしていたいっていうのは、僕の我が儘…かな)






「マティウス様、新しい信者を連れてきました」


「御苦労、貴様がチトセ・チャルマか」


「はい、マティウス様」


ペコリとお辞儀をしたチトセに歩み寄るマティウス様。
すると、マティウス様が兜に手をかけ、兜を取った。
さすがにこれにはビックリしたようだ、チトセは手を口元に近付けて固まっている。


「マティウス様!?」


「信者となった者には再度確認を得ているのだ。チトセ・チャルマ。これを見ても、貴様は私に付いていこうと思えるか?」


チトセはしばらく固まって動かなくなってしまっていた。
僕もじっとチトセの答えを待っている。


「わ、私は…」


俯いていた顔を上げ、まっすぐマティウス様を見つめるチトセ。


「私は、それでもマティウス様にいつまでも付いていきます」


その瞳は決意も、覚悟も、全て隠っている瞳だった。
懐かしくも、憎々しい瞳。

(あぁ、彼女は気付いていたんだ)

マティウス様が、アスラであることに。






.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ