多生之縁

□信じるコト
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ナーオスの大聖堂の前辺りに来てからみんなの足は止まった。
アンジュがこちらに体を向けて口を開く。


「大聖堂には、秘密の図書室があります。そこへ参りましょう」


「どうして秘密なの?」


ルカの質問に俺は頷いた。
俺もちょうど質問しようとしていたところだが、もしもみんな知っていて俺だけ知らないという状況に置かれたらどうしようと躊躇っていたところだ。
ルカも知らないらしくて、俺はホッとする。
するとアンジュは「そこにはね」とちゃんと質問に答えてくれるべく笑う。


「天上からの天啓を書き記した文献があるの。こういうものは一般に公開しないのよ」


「そんなん、ケチケチせんでエエんとちがうの?」


確かに、と思う。
リカルドが呆れたようなため息をついた。


「情報、というものは独占してこそ価値が出る。"教会"という巨大な組織の権益を守るために必要な処置だったんだろうよ」


リカルドの言ったことが正しいのかアンジュはニコリと笑いながら「そういうことです」と言う。
教会も大変だったんだな、と他人事のように心の中でぼんやりと呟く。


「じゃ、用意するからみんな待っててね」


アンジュが小走りで横へと向かっていった。
俺たちも目で追ってから隠れていたドアを見つけてしゃがみこんだ。


「中は暗いから、気を付けてね」


みんなで「はーい」と子供みたいな返事をしてアンジュの元へと歩み寄った。
ドアを上に開いて支えるアンジュに俺たちは本当に暗い図書室の中へとゆっくり降りていく。
みんなが降りてしまってから、アンジュも中に入って電気を点ける。
それからすぐにイリアが鼻を抓む。


「うっわ〜、カビ臭っ」


カビ臭いことに気付いたらしい他のみんなはさりげなく鼻の辺りを押さえる。
俺は周りを見回してからうんざりしたように呟く。


「ほんと、本ばっかりだな。なんか落ち着かねーぜ」


「かくれんぼ、したなるなぁ」


目をキラキラと輝かせながら言うエルマーナ。
その言葉に続くであろうあいつの言葉を待つ。
だが、いくら待ってもあいつのアホらしいような声が聞こえない。
みんなも気付いたようにあいつを探す。


「モアがいない」


「クロスウェイならナーオスに向かう途中でレグヌムに戻った。用事があるらしい」


「ありゃりゃ、全然気付かなかったわ」


イリアの言葉に俺とイリアはケラケラと笑う。
アンジュは「はいはい」と手を叩いて注意を自分に逸らさせる。


「モア君が来るまでここで待ってましょう。好きなことしてていいわよ」


「こんなところで何しろってんだよ」


ぐちぐち俺は言う。
仕方ないからエルマーナやイリアに混ざってかくれんぼでもするか。
俺たちの心が読まれたのかアンジュは「かくれんぼ以外でね」と笑顔で言った。
俺たちは一斉に舌打ちの嵐を巻き起こす。
レインに視線を移すと、レインは本をパラパラと見て戻してはまた次の本をパラパラと見て戻してを繰り返している。
どうやら何かの本を探しているようだ。


「本探してんの?」


「あ、ベル。うん、前世のこと何かわからないかなって思って」


「前世の記憶はいつかは思い出せるだろ。それまで待てねぇの?」


俺の問いかけにレインは目を落としてから首を横に振る。
小さく「そんなんじゃなくて」と呟くような音量で言ったレインに俺は首をかしげた。
少し黙り込んでから顔を上げて「何でもないの」と笑う。
その直後、レインの表情は鋭くなったと思えばこの図書室の出入り口を見上げる。


「来た」


「…敵か?」


レインは首を振って「違う」と言ってからアンジュに視線を送った。
あからさまに出入り口から離れていくレインを見て、俺たちは何となく察する。
アンジュは出入り口へと向かって、あいつの名前を呼んで手招きをしていた。




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