sail in the same bort

□trigger
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みんなの後を大分距離をあけながらついていく。
このままみんなに気付かれないうちに抜け出そう。
そう思っていたのだが、不意にこちらに顔だけを向けたリカルドと目が合った。
リカルドは足を止めて僕を待とうとしているようだ。
僕は戸惑いながらも足を止めずにリカルドを通りすぎようとする。


「おい」


リカルドの呼び掛けを無視しようと顔も向けずにリカルドの前を通る。
やはり許してもらえるわけもなく、リカルドに肩を掴まれて強引に顔を合わせられた。
僕がリカルドから目を逸らそうとすると、黙り込んでしまう。


「どこに行くつもりだ」


「どこだって…良いだろ」


「良くない」


「……っ、何でだよ…」


僕を止めないでくれ。
一度止められたら、揺らいでしまう。
リカルドはため息のような息を吐き出して、僕はチクリと胸が痛んだ。


「仲間だろうに」


そう言ったリカルド。
僕は潤み始めた視界のまま、リカルドを見上げる。
そして、すぐにまた俯いてしまう。


「ありがとう。…ごめん。僕、用事があるから…行かなきゃ」


僕の肩を掴んでいるリカルドの腕を掴む。
力の入らない手でリカルドの腕を退かそうとすると、リカルドは簡単に離してくれた。


「次はナーオスに向かう。用事が済んだらすぐに来い」


「…うん、そうするよ」


顔は上げてきっとまだ眉が下がったまま、精一杯笑う。
リカルドに背を向けて、みんなに背を向けて、僕はもう一度レグヌムに戻ることにした。


レグヌムの兵士の数は大して変化もなく、あの辺りこの辺りとうじゃうじゃ彷徨いている。
僕は空から宿屋を探して、兵士がいなくなったところを見計らって降りて、すぐに宿屋に駆け込んだ。
カウンターにいたおじさんに「電話貸してください」と言うとおじさんはニヤリと笑う。


「電話代、払ってもらうよ」


このケチおやじ、と心の中で悪態を吐いてから悪態の代わりにため息を吐く。
背負い袋の中から金貨のたくさん入った袋をカウンターに置く。
それにおじさんは目玉が飛び出そうな勢いで目を見開いた。


「いくらでも払うから、貸してよ」


「ま、まいどあり…」


一応ちゃんとコードレス電話だったので、宿屋の空いてそうな部屋に入って番号を押す。
受話器を耳に当てると、少しの間プルルルと音が鳴った後、もう既に懐かしい声が聞こえた。


「マティウスだ」


「マティウス様、モア=クロスウェイです」


「そうか。…それで?」


「はい、彼らはまずナーオス基地にてオリフィエルとヒュプノスを仲間にした後、レグヌムにてヴリトラを仲間にしました。今はナーオスに向かうようです」


「報告感謝する」


マティウス様の短い返事。
それだけで、また揺らいだ。
帰りたい。
でも、帰りたくない。
それだけで黙りこくってしまっている僕に、マティウス様が受話器の向こうでクスクスと笑った。
僕は照れたように顔を赤くしながら「な、何ですかっ」と言う。
顔が赤いところなんて見えないけれど。


「いや、元気そうだと思っただけだ」


僕も釣られるようにクスクスと笑う。
ひとしきり笑ってから、僕は「ねぇ、マティウス様」と話しかけた。
彼女はかわいらしく「何だ?」と言ってくれる。
言おうと口を開くも、何かに背中を押されるどころか背中を引かれている気がしてならない。

(でも、僕は…)

ゆらゆら、揺らぐ僕の心。
無意識のうちに受話器を握る力が強くなってしまう。


「僕…マティウス様、僕は…」


「モア」


凛としたマティウス様の声に、またもや無意識のうちに瞳が潤む。


「私は、貴様を信じている」


「ま、マティウス様…?急に何を…」


「貴様は優しいやつだと知っている。だから、もう無理はしなくていいのだ」


「な、何のことだか…さっぱり…」


「わかっているのだろう?貴様が、本当にやるべきこと、やらなければならないこと」


止めて、止めてよ。
僕が優しいなんて、そんなの嘘だ。
自分のことしか考えていない僕が、優しいだなんて。


「嘘、だよ…」


今にも溢れてしまいそうな涙を上を見上げて堪え、呟く。
と、宿屋が何やら騒がしい。
僕のことがバレてしまったのか、それとも宿屋に転生者がいないか探しに来たのか。


「マティウス様、ではまた」


それだけを告げて受話器を耳から離した。
離したはずなのに、聞こえる声。
僕は電話を切るボタンを押して受話器を部屋にあったベッドに置いてから、窓を開けた。
そのまま空へと逃げる。

限界を越えてしまったらしい僕の涙はぼろぼろと溢れるばかり。

(僕、僕…わからないよ…)

やっぱりどちらも守るなんて無理なんだ。
片方を守るために、片方を犠牲にしなくてはならない。
これがアタリマエなんだ。
いつの間にか、情がわいてた。
いつの間にか、みんなが大切だと思っていた。
優しすぎるみんなが。
本当に少ししかいなかったはずなのに、何故か。



『私は貴様を、大切に思っている』



僕だって、僕だってマティウス様が、アルカのみんなが、チトセが大切だ。
わかってる、わかってるから。

(こんな、こんなにつらいんだ…!!)

僕はアルカにみんなを売ってしまったという真実が、堪らなくつらい。




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