sail in the same bort

□trigger
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「落ち着いたか?」


「ん…、ありがと」


リカルドじゃなく女の子達に慰められたらすぐに落ち着いていたかもしれないのに。
なんてことを考えながら隣に座っているリカルドに一応お礼を言っておく。


「さて、僕たちも本を探すとしようか」


椅子から立ち上がって振り返ると、腕を掴まれた。
ぐいっと後ろに引かれて顔だけを後ろに向けると、リカルドが相変わらずの無表情で僕を見ている。
きょとんとした顔で「何?」と言うと、リカルドは言葉を選んでいるかのように黙ってから「いや」と首を振ったリカルドに僕は訝しげに首をかしげた。


「変なリカルド」


「…何か」


「ん?」


「何かあったら、誰でもいい。誰でもいいからすぐに相談しろ」


そう言ってから腕が放される。
下ろされた腕に僕はふ、と吹き出して笑う。
何も答えないままに僕は本棚の方へと歩いていく。
すると、ぼんやりと床に積み重なっている本の山の前で立っているやつがいた。
僕はまず辺りを見回してから目の前にいるやつを見据える。


「ストラス、何見てるんだよ。こんなみんなが近いところで出てこないでよ、僕が独り言言ってるみたいじゃない」


冗談っぽく言っているのに反応のないストラスに僕はまたもやまいったな、と思う。
ストラスに「ねーねー」と言うとようやく僕に気付いたようでストラスは体をビクリと跳ねさせて僕を見た。


『どどどうしたの!?こっちには何にもないんだからね!!』


「てことは何かあるんだ?見せてごらんよ」


透けているせいで僕を止められないストラスはただオロオロとしているが、諦めたのかガックリと肩を落とした。
積み上がっている本の山の中目を引いたのは見たこともない文字で書かれた本。
その本を本の山から抜いて持ってから立ち上がる。
今使われている文字でもなく、昔使われていた文字でもない。


「これは…?」


『僕が独自に生み出した文字で書いた、…日記』


「……日記ぃ?」


思わず吹き出したくなるような言葉に僕はすっとんきょうな声をあげてしまった。
ストラスは照れてしまったのか俯いてしまっている。
コクコクと頷いているストラスを見るに、本当のようだ。

ストラスが日記を残しているとは。
これは好都合。
これで僕に足りないものが満たされるだろう。
無意識に口許に浮かぶ笑み。
それを無理矢理に押し込めてから表紙を開く。
見たこともない文字であったが、開いてみると文字が読めた。
これでも一応ストラスの転生者だからだろうか。

日記を見るために視線を落としたまま後ろを振り返ると、視線を感じた。
顔を上げると、レインが僕に顔を向けているではないか。
僕は嬉しくなって手を振ると、すぐに顔を背けられる。
やっぱり嫌われているみたいだ。

(レインのそばにいれば好かれると思ったんだけどな…)

大きく息を吸い込んでため息を吐く。
それにしても、ストラスの日記はめちゃくちゃ分厚いのに全然質量を感じない。
これもストラスの転生者であることが関係しているのだろうか。


『あ、あんまりマジマジと見ないでね…恥ずかしいから…』


「んあ?大丈夫大丈夫。どうせ僕にしか見られないよ」


『後悔は、するなよ?』


背後から聞こえた普段のストラスとは思えないほどの低い声。
僕が「え?」と振り返った頃には埃を舞わせて消えていた。
懐かしい胸の奥底にまで響く声に僕は目を細める。


「後悔なんて、今さらだっつーの」


そうぽつりと呟いて、リカルドの隣の椅子に腰かけた。




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